ある会社で人材育成に関する打ち合わせの中で、「育つまで三年かかる」という話がありました。
ここだけ聞けば、それなりにもっともな話で、人材育成には相応の時間が必要であり、例えば新入社員が一人前と言えるレベルになるまでに、三年くらいの期間を見込むのは普通のことだと思います。
ただ、今回の話で言えば、新しい事業展開に向けて、即戦力のコア人材をどう育成していくかという話でした。ここで三年もかかると手遅れにならないかと少し心配です。
このような仕事の「スピード感」の違いは、私がいろいろな会社を見ている中では、結構良く感じることです。
これはあくまで一般論ですが、経営者と社員では、経営者の方が要求スピードが早く、営業と間接部門では営業の方が早く、民間と公的機関では、民間の方が早い印象があります。意思決定をしなければならない立場の人の方が、仕事の「スピード感」は早い気がします。
そして、自分たちの仕事の「スピード感」がどのくらいのレベルかというのは、実は意外に自覚できていないことが多いです。比較対象があれば、それに対しての遅い、早いは言えますが、その時の基準は基本的にみんな「自分」で、「自分が普通」に対する比較で遅いか早いかをとらえます。
また、その感覚は仕事柄によっても変わります。
私自身のことで言えば、会社でシステム開発現場にいた頃よりは、管理部門の頃の方が時間をかける傾向だったと思いますし、その後独立してからは、「自分で決めなければならない」「人任せにできない」という立場なので、時間を置いても変わらないことはすぐやるようになりました。
そんな感覚なので、他人を見ていても「すぐやればいいのに」と思うことが多いです。
ただ、仕事をする上では慎重さも丁寧さも大切で、何でも早ければよいということではありませんし、いろいろ事情があるのもわかるので、よく考えてじっくりやることも必要です。時間がかかるのは仕方がないと思うことはあります。
それでも私が最近感じるのは、多少拙速だと思っても、とりあえずやり始めてやりながら考えた方が、その後の結果はよいということです。仮に万全と思う準備をしていても、その後の試行錯誤の度合いは、結局あまり変わっていないように見えるからです。
やはり環境変化が激しくて、先の見通しは立てにくい時代なので、やりながら、動きながら、臨機応変に修正しながら進めることが必要になっています。
仕事の進め方には、人によってそれぞれ固有のペースがあり、もし問題があると思っても、そのペースを急に変えるのは難しいことです。要求が「今よりも早くする」というときは、さらに難しくなります。
そんな人それぞれの「仕事のスピード感」はあるにしても、今はやっぱり「スピード」が優先される時代です。特に事前準備に時間をかけすぎたり、余裕が欲しいだけでスケジュールを先延ばしにしたりすることは、できるだけ減らしていかなければなりません。
これからは、自分基準では普通と思う「スピード感」を、少しだけでも早めていく意識が必要です。急に変えられなくても、「ちょっとだけ早く」が良いと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
組織が持っているムードは、社風、一体感など感覚的に表現されますが、その全ては人の気持ちに関わる事で、業績を左右する経営課題といえます。この視点から貴社の制度、採用、育成など人事の課題解決を専門的に支援し、強い組織作りと業績向上に貢献します。
「社員にやる気を出させるヒントになるエピソード集」のコラム
「カリスマリーダー」は配慮が細かいという話(2024/01/31 23:01)
「うちは特別だから」という会社の話(2024/01/10 22:01)
メリットだけではない「離職率の低さ」(2023/12/06 23:12)
「いつでも機嫌が良い」というリーダー資質(2023/11/01 16:11)
「根気の続かない人」と「融通が利かない人」(2023/10/19 13:10)
このコラムに関連するサービス
【無料】250名以下の企業限定:社員ヒアリングによる組織診断
中小法人限定で当事者には気づきづらい組織課題を社員ヒアリングで診断。自社の組織改善に活かして下さい。
- 料金
- 無料
組織の課題は、当事者しかわからない事とともに、当事者であるために気づきづらい事があります。これまでの組織コンサルティングで、様々な組織課題とその改善プロセスにかかわった経験から、貴社社員へのヒアリング調査によって組織課題を明らかにし、その原因分析や対策をアドバイスします。予算がない、依頼先を見つけられないなど、社外への依頼が難しい中小法人限定です。社員ヒアリングのみで行う簡易診断になります。
このコラムに類似したコラム
メリットだけではない「離職率の低さ」 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2023/12/06 23:18)
日本人は「撤退が下手」という話で思ったこと 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2022/06/23 07:00)
なかなか自覚しづらい「論理的でない仕事」 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2022/05/05 08:38)
そんなに「前の会社」が良かったのか? 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2021/08/10 07:00)
過剰な気遣いで役員と社員の間にできた壁 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2021/02/16 08:54)