それぞれ別の会社から、 「社員の評価」に関する同じようなトラブルの話を聞きました。
私が聞いたのは会社の言い分だけなので、本当にそうかは何とも言えませんが、どちらもずっと能力不足と評価され続けている社員だといいます。
「今までは何とか大目に見てきたが、業績も厳しい中で甘やかすのはもう限界」とのことで、降格などを検討しているそうです。
なぜトラブルかといえば、この扱いを本人が納得せずに、法的措置も含めた争いモードになりつつあるとのことで、会社の言い分と本人の感覚には、かなり大きな溝があるようです。
私から見ると、揉めているそもそもの原因は、ほぼ100%会社側にあります。今までずっと、会社の言い分に見合うような人事評価をしてきていないからです。
5段階評価で、ほぼずっと真ん中のC評価、ごくたまにちょっと下がってD評価というような状況です。直近で駆け込みのように数回の最低評価がされていますが、本人の担当業務は同じで、仕事ぶりも特に変わっていません。勤務態度はルールに反することもなく、大きな業績貢献はありませんが、大きな失敗もありません。
なので、本人からの「なぜ急に最低評価なのか」という質問には、「今までの評価が甘かった」などと言うばかりで、誰も本人の納得がいく答えはできません。
こういうことは、多くの会社で経験があるはずです。そうなる理由は、とりあえずやってもらう仕事があって、レベルは物足りないがそれなりにどうにかなっていると、その評価はたぶん「標準」「普通」となっていることが多いでしょう。
能力が足りなくても、それを評価に反映せず、本人に伝えることもあまりせず、なあなあの状況のままで時間が過ぎてきたのでしょう。
この「標準」「普通」の評価では、日本企業のほとんどで、定期昇給の形で給料は上がります。本人からすれば、毎年「普通」と評価されて昇給していくわけですから、よほどの上昇志向がない限り、「自分はこれでOK」と思うのは当然でしょう。
この状況をそのまま放置し続けると、能力レベルと給料額のかい離はどんどん進みます。そしてあるきっかけで「いよいよそれでは耐えられない」となり、急にリストラ候補のような扱いを始めたりします。
それまでずっと平穏だったのに、いきなりそんなことを言われた本人は、戸惑うでしょうし反発もするでしょう。そこからトラブルに発展してしまうこともあるでしょう。
私が言いたいのは、そんなに前から能力が足りないと思っていたのであれば、なぜその場その場で能力に見合った評価をし、その時その時の課題を本人に伝えてこなかったのかということです。
自分の予期せぬことがいきなり身近に降ってきて、それが自分にとって良いことならまだしも、悪いことであれば強く抵抗するのは当然のことです。
反対に、ある程度予想ができていることであれば、事前の対策も心の準備もしますから、起こった物事を受け入れやすくなります。
最近、企業内でよく聞く雇用や人間関係にかかわるトラブルは、この「いきなり」ということが、あまりにも多いように思います。先行きの見通しが難しい環境で、そんな傾向がさらに増しています。
「伝えるべきことはその場で伝える」「前もってわかることは、できるだけ早く伝える」ということを怠ると、そのしわ寄せは結局会社に返ってきます。
「いきなり言うからトラブルになる」のだと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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