最近はテレワークの環境も整備され、その条件はそれぞれあるものの、在宅勤務を認める会社が増えてきました。一部の官公庁でも、「企業にワークライフバランスを推奨している霞が関から手本を示したい」など、子育てや介護中の職員を中心に、自宅で勤務できるような制度を導入しはじめています。
特に大震災の直後は、事業継続計画(BCP)との関係もあって、在宅勤務を検討する企業が増えていて、私もそのために必要な人事制度セミナーなどを依頼されたことがありました。
その際にいろいろ調べていた中で、「在宅勤務をやりたいか?」という調査結果があり、そこでは「制度があれば利用したい」が約4割、「制度があっても利用したくない」が2割、「わからない」が4割と、みんながそれほど前向きにやりたいと思っている訳ではないというデータがありました。
その時のセミナー参加者にも同じことを聞いてみましたが、出席者の半分近くは「やりたくない」との答えで、導入推進が当然と思っていた私の考え方とは、どうも違うようでした。
なぜやりたくないのかの理由を聞いたところ、「家で仕事をしても集中できない」など、仕事とプライベートのケジメがつけづらいという話が最も多かったですが、その他に「平日の昼間まで家族と顔を突き合わせているのは息苦しい」とか、「“会社に行く”という、出かけるのに最も正当な理由を放棄するのは嫌だ」など、仕事そのものとはあまり関係がない理由をおっしゃる方が結構いらっしゃいました。
こういう理由を述べる人は、ほぼ100%男性で、これに対して女性は「在宅勤務ができるならばやりたい」と前向きにとらえる人の方が、過半数を超えて多いという状況でした。ただ男性ほどではないにしても、やりたくないと答える人はやはりいらっしゃいました。
IT環境の進歩に伴って、在宅勤務を実施するためのハードルは、以前に比べて格段に低くなっています。最低限のセキュリティが保たれ、ネットがつながりさえすれば、大半の仕事は場所を選ばずにどこでもできる環境があります。はっきり言って、週に1日や2日の在宅勤務であれば、その気になりさえすればすぐに実施できると思います。
ただ、在宅勤務の導入が思いのほか進まないのは、制度や技術の問題以前に、働く人たちの「職業観」など、意識の問題の方が大きいのだと思います。
未だに多くの管理職は、自分の部下が物理的に目の届く範囲にいなければ管理しづらいと考え、部下も監視されるのは嫌っていても、すぐ話せる場所に上司がいた方が仕事上は都合が良いと考え、お互いにフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションでなければ本音が伝わらないと考え、仕事をする「場」をともにすることが当たり前であると考えていたりします。
もちろんそういう要素はあるので、それは否定しませんが、例えばグローバルな環境でビジネスをしている会社では、働く場所も時間帯も異なるメンバーたちと一緒に仕事をしていかなければなりませんし、スピード重視の場面であればなおさら、いつまでも昔ながらのやり方で、時間や場所を共有して仕事をしようとするばかりでは立ち行かなくなってきています。
在宅勤務の導入可否について、働く人の「職業観」「意識」の問題が大きいとすれば、まずは「無理やりに」でも「お試しに」でも、「やらせてみる」ということが必要なのかもしれません。
多くの人が実際に在宅勤務を経験してみれば、そのメリットもデメリットも体感することができます。そんな中から、これらの制度に対する拒否感が薄れ、前向きに活用していこうという雰囲気が生まれてくると思います。
ワークスタイルの変革は徐々に進んできてはいますが、さらにスピードアップするためには、まずは今までの「職業観」「意識」を、少しずつ変えていくことから始める必要があるように思います。
このコラムの執筆専門家

- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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