人事制度改革で「あまり変えないでほしい」と言った社長
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数年前の話になりますが、人事制度改革を検討しているという企業にお話を聞きに行った時のことです。
社長から直々に、今の制度の課題、基本的な考え方、進めたい方向性などの話をしていただきました。そこから感じたのは、課題はいろいろな企業で同じように起こっているものであることと、同様の他社状況から見て、制度と運用の両面でそれなりに時間をかける必要があることでした。
ただ、最後に社長が一言、「できればあまり大きな変更はして欲しくない」といいます。人事制度“改革”なのに、あまり“改革”して欲しくないというのは、大きな矛盾です。
その後の話でわかったのは、この社長は人事をはじめとした社内制度作りにとても熱心で、かなり勉強もしているようです。ただ、社長の熱心さに社員たちがついて来られない様子があり、それが「できればあまり変えないでほしい」という話につながっているようでした。
実際に運用されている制度も、ただ型通りのものを持ち込んだ訳ではなく、自社なりの工夫がされており、課題があるとは言ってもそれなりの効果も生んでいるように見えます。
しかし、社員の立場からは、「手間ばかり増えるのに効果が見えない」と思っている様子があちこちにあります。これまでも頻繁に制度や運用の見直しは行っていたようですが、定着する間もなく変更されるということが続き、その意識にさらに拍車がかかっています。制度改革は「面倒」「手間が増える」「直接のメリットはない」など、ネガティブな思い込みになってしまっています。
実際には、まったくメリットがないということはありませんから、ムードやイメージでそうなってしまっている部分が強いようです。
そんな事情を考えると、社内でもできる制度改革をあえて社外に依頼したのは、第三者のお墨付きを得てネガティブな思い込みを変えたいということがあり、「できるだけ変えないで欲しい」と言ったことも、社員を過度に刺激したくないという気持ちであり、それぞれ十分に理解できることです。
この会社でまずやるべきことは、社員のネガティブイメージを変えることなので、社員から意見をよく聞き、今の制度の理解と納得を得られるように説明し、場合によっては制度の後戻りもやむを得ないという考え方になります。大きなジャンプのために一度しゃがみ込むと考えれば、これも必要なことです。
「人事制度改革」と一言でいっても、本当にいろいろなパターンがあります。
このコラムの執筆専門家

- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
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