「柔軟な働き方」が向かない人、できない人もいる
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「分断勤務制度」といって、一日の所定労働時間を分けて勤務することができるようにする制度があります。
例えば、社内で5時間働いて、帰宅後に自宅で3時間働くなど、1日の所定勤務時間を満たせば、時間や場所を問わずに働くことができ、テレワークと組み合わせて実施する企業が増えているそうです。
働く時間帯を柔軟に設定できることで、子育てや介護を抱える人にもメリットが大きく、深夜作業や海外対応への考慮もしやすくなるとのことです。
これを見て私が最初に思ったのは、「私たちのような独立事業者の働き方と同じ」ということです。
私たちには1日の所定労働時間などという縛りはなく、自由度の高い働き方ができますが、その代わり確実に保障された報酬もありません。
時間や場所に多少の縛りがあったとしても、雇用関係による身分の安定と、毎月一定の収入が保障された状態で、私たちと同様の働き方ができるというのは、少しうらやましさも感じます。
コロナ禍を経験したこともあり、「柔軟な働き方」を指向する流れは当分変わらないと思いますが、私が気になるのは、会社に雇われて働くことに慣れた人たちが、果たしてこの「自営業者のような働き方」になじめるのだろうかということです。
結構前のことなので、当時の意識からは変化してきていると思いますが、あるセミナーの受講者に対して「在宅勤務をやりたいか」と聞いた時、やりたい人とやりたくない人の割合はほぼ半々でした。
どちらかと言えば男性の方が後ろ向きな人が多く、その理由は「家で仕事なんてしたくない」「家では仕事のスイッチが入らない」などという本人の気分の問題や、「ずっと家にいるのは気が滅入る」「“仕事”という最も制約がない外出理由を手放したくない」などというものもありました。
こういう感覚も今では少なくなっているでしょうが、本音ではまだこう思っている人がいるかもしれません。
在宅勤務も「自営業的な働き方」の一種として考えると、そこにはかなりの自己管理的な要素が含まれてきます。これは本人の性格や資質に左右される点が大きいと思われ、向いている人といない人、うまくできる人とできない人で、差が出てくるのではないかと思います。
「柔軟な働き方」で考えられる良い面には、生産性や効率アップ、通勤をはじめとした移動負荷軽減、可処分時間の増加といったものが挙げられますが、逆にマイナスの影響として、自己管理が苦手な社員たちの行動の問題が挙げられます。本当の自営業であれば、自分のさぼりは収入に直結するため、自己管理が必須というインセンティブが働きますが、給料がある程度保証された環境であれば、特に自己管理ができない人は、どんどん甘えの方向に引きずられていきます。仕事の成果を問う、評価を明確にする、仕事ぶりを見張るなどといったことで縛りをかけるのでしょうが、これもやり過ぎると働き方の柔軟性は失われます。
「柔軟な働き方」が進められていく様子を見ていると、社員に自営業者的な自己管理を求めているところがあるように思います。米国の有名企業で在宅勤務の制度をやめるところが出ていますが、たぶんこのあたりの問題があるのでしょう。
日本人は比較的真面目だといわれ、そこまで問題にはならないかもしれませんが、「自己管理が苦手な人」への自由度を高めるということには、それなりの覚悟が必要です。在宅勤務や分断勤務で業績が下がっては、まさに本末転倒になります。
「柔軟な働き方」はこれからも進めていくべきですが、それが向かない、できない社員も存在します。制度の設計や社員の指導に工夫と配慮が必要です。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
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