私がいろいろな会社で、退職希望を出した社員から理由を聞く中で、「お手本になる人がいない」「目標になる人がいない」という話をよく聞きます。自分の身近に「目指したい人」「目標にしたい人」がいるか否かが、特に新人や若手社員の転職意向に影響しているのは間違いないでしょう。そんな状況を示す調査結果もあるようです。
ただ、この状況がわかったとして、では会社がそこから退職者対策ができるかというと、それほど簡単な話ではありません。
優秀で人格者のような社員が大勢いれば、目標やお手本になる確率は高まるかもしれませんが、対象となる全員からそう思われることは、たぶんありません。「目指したい上司」を会社の努力で増やせるかといえば、人材教育などを行ったとしても、うまくいくかどうかはわかりません。
私自身のことで言えば、今まで明確に「目指したい上司」や「目標にしたい人」と思う人には出会ったことがありません。ただ誤解してほしくないのは、全人格的に「目指したい」「目標にしたい」と思う人はいなかったというだけで、今まで良い上司や先輩にはたくさん出会っていて、その人たちの行動や考え方の中から、参考やお手本にしたことはたくさんあります。
これは個人的な考え方ですが、どんな人にも良いところと悪いところがあり、すべて完璧ということはありません。なので「尊敬する人は誰か」を聞かれても、「いない」とか答えようがありません。
どんな立派な偉人のような人でも、「この人のここは素晴らしい」「尊敬できる」「ここは真似したい」というところばかりではなく、お手本にならないところも必ずあります。それをひとまとめに「尊敬する人は?」などと聞かれても、「そういう人はいない」となってしまいます。
私は「お手本になる人」「目標になる人」「目指したい上司」という人には、そう簡単に出会えるものではないと思っています。長い社会人人生の中で、そういう人がいたとしてもほんの数人、もしいなかったとしても、それはごく普通のことです。まして新入社員や入社数年の若手のうちに、そんな人に出会えればかなりの幸運です。
「尊敬する上司」との出会いのエピソードを聞くことがありますが、そういう出会いがあった人をうらやましいと思う反面、それが思い当たらないことを特に不幸とも思いません。自分にとってそんなに都合が良い他人が身近にいることはめったにないからです。
若手社員が「目指したい上司がいない」と不満に思う気持ちはわかります。そういう人がいるに越したことはありませんし、以前は私もそう思った時期があります。
ただ、どんなに転職を重ねても、「目指したい上司」に出会えることは、たぶんほとんどありません。いろいろな人に出会って、いろいろな人の良いところや悪いところを見て、それを自分なりに吸収しながら経験を積む中で、自分なりの「目指したい姿」が見えてくるのだと思います。
もしも本心から「目指したい上司がいない」という理由で会社を辞めるなら、それは転職では解決できない可能性が高いことです。自分が目指すものは、自分なりに作りだすものだと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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