以前見たテレビ番組ですが、「日本における基礎研究の危機」という特集の中で、日本人学者のノーベル賞受賞が今後は難しくなるだろうという話がされていました。
ある大学学長によれば、昨今の日本では学術論文数での競争力が落ちていて、他の先進国では伸びているにもかかわらず、日本の場合はほぼ横ばいで、人口あたりの数では30位以下、論文の質でも40位以下、博士課程の学生数も減少していて若い研究者が育ちにくく、将来の研究に悪影響を与えるだろうとのことでした。
しかし、政府からは国立大学の予算削減や研究費の削減が続いていて、その理由は論文を産出するコストが高く、研究生産性が低いとされているためとのことでしたが、実際には大学の研究者が教育だけでなく多くの雑務をおこなっていることや、報酬の低さや生活の不安定さによって研究者を続けられずに諦めているなどの原因があると指摘していました。
この学長の言い分も政府の見解も、どちらもそれなりに裏付けがあるはずなので、一概にどちらが正しいとは言えませんが、「生産性」という言葉が出てくると、私は同じような指摘で企業での労働時間削減の話を思い出します。
日本の長時間労働は、働く人の「労働生産性」が低いことが原因で、付き合い残業や生活残業など、無駄な時間をかけた仕事ぶりが問題だという指摘で、特に経営者は「労働生産性」の国際比較などの数字を示しながら、これを強く主張していました。
ただ、実際の「生産性の低さ」の中は、サボっている、能力が低いといった個人の業務効率が悪いことばかりが原因ではありません。
重複したテーマでの会議や打ち合わせの多さ、書類や事務手続きの多さや煩雑さ、意思決定までの時間の長さや手間の多さなど、仕事の進め方や環境によるものが数多くあります。
そもそも労働生産性という数字も、天然資源が多い国や、金融や為替機能を通じた不労所得のたぐいが多い国の方が高く出る傾向がありますから、地道にコツコツ物作りをしている会社や、労働集約的なサービスが多い日本では、その低さの原因を「働く人の生産性」だけに求めると、本質を見誤ると思います。
少し前に、LGBTに関連した話で「生産性」という言葉が使われて批判されることがありましたし、それ以外にも、業績や成果が上がらない原因として「生産性」が挙げられることがありますが、その多くが他人や周囲の環境に対する一方的な問題指摘のように感じます。「生産性が上がらないのは、自分にも問題があるはず」とはならないのです。
かつて「業績が悪いのは社員が働かないから」と発言してひんしゅくを買った大手企業の社長がいましたが、似たようなニュアンスの話は今でも多くの場所から耳にします。
「生産性が低い」といって、その責任を一方だけに押し付けてしまうと、本当の原因を見失います。「生産性」の良し悪しは、周りのすべてのことが関わっています。
「生産性が低い」という指摘には注意が必要です。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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