ある会社の採用面接で、その人の「失敗体験」を質問していました。
それを聞く理由は、どんな経験を失敗と捉えるのか、それをどう克服したのかを知ることで、その人の考え方や姿勢、努力の可否や成長余地が知りたいということでした。
採用面接の質問としてはわりと一般的で、私も面接官になったときには、こういった質問をすることがありますし、聞きたい理由も似たようなことです。
ただ、私自身は「失敗」や「挫折」の経験を聞かれても、あまりはっきり答えられることがありません。しいて思いつくのは「寝坊した」「遅刻した」程度のもので、それ以外で記憶に残っているものはほとんどありません。
もちろん仕事上のミスなどはありますが、その影響を最小限にするようにリカバリーをしますし、そもそも失敗は嫌なので、それができる限り起こらないように準備も注意もします。そこまでどうしようもない「失敗」を自覚したことがありません。
「挫折」については、たぶん性格的なものもあり、できないことができるようにする努力は必要と思うものの、ある時点での自分の力量は決まっているので、その時にできないものはできないと割り切っています。
計画していることがうまくいかなくても、どこかでそれを想定していますし、できないものはできないので、それを他人と比較して落ち込むこともありません。
他の人だったら「挫折」を感じることも、そう思わないくらい鈍感なのか、それとも本当に「挫折」の経験がないのか、どちらなのかはよくわかりません。
よく「失敗」「挫折」の体験が人を成長させるといいます。嫌な経験はもう二度としたくないと、その経験を活かして対応するようになるので、成長につながるのは確かだと思います。
ただ、それを実際の人材育成の場に取り入れようとしても、なかなか難しいところがあります。「失敗」や「挫折」は、発生の有無やその程度がコントロールできないからです。
新入社員レベルで、ごく限られた範囲の仕事をしているうちであれば、まだ可能かもしれませんが、本人が「失敗」だと自覚して反省し、それほど大きな影響がなく回復できるような「失敗」は、そんなに都合よく起こりません。
「挫折」も本人の感じ方次第なので、他人がさせようとしてできるものではありません。
そもそも人材育成では、より効率的で成功しやすい方法、失敗しづらい方法を学ばせています。もしも「失敗」や「挫折」が成長につながるのなら、一般的な人材育成は、成長を妨げる教え方をしていることになります。
「失敗」「挫折」が人を成長させるのは確かだとして、それはあくまで本人が感じる主観によるものです。人生の転機になったなどと言い、そういう経験が重要だと言う人は大勢いますが、感じ方は個人によって違い、そこからくみ取るものも違います。何かを学びがあった、意味があったと位置づけることで、過去の悪い記憶を断ち切ろうという心理もあるでしょう。
私は「失敗」「挫折」の体験は、運悪く遭遇してしまったら、その経験は“自分なりに”将来に活かすもので、すべての人の成長に必須ではないと思っています。経験談として伝える以外は人材育成に使いづらく、同じ対応が必ずしも同じ結果につながる再現性もありません。
「失敗」「挫折」の体験は、あればそれを自分なりに活かし、なくて済んでいるならそれに越したことはないと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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