「理想の仕事」という調査結果を見て思ったこと
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NHKでは「日本人の意識」調査といって、同じ質問、同じ方法で5年ごとに実施して、日本人の生活や社会についての意見の動きをとらえようという目的の世論調査があります。1973年の石油ショック直前が第1回で、最新は2018年に行われた10回目になるそうです。
この中に、「理想の仕事」という設問があります。12個の選択肢の中で1番目と2番目にそう思う項目を選ぶものですが、その1番目と2番目に選ばれた項目を足したトップ4は、「仲間と楽しく働ける仕事(仲間)」が44.8%、「健康をそこなう心配がない仕事(健康)」が37.3%、「専門知識や特技が生かせる仕事(専門)」が29.4%、「失業の心配がない仕事(失業)」が24.1%の順となっていました。ちなみに第1回の結果では、1位が「健康」で46.5%、2位が「仲間」で36.6%、3位が「専門」で26.0%、4位が「失業」で20.2%となっており、経年変化の中でもこのトップ4の構成は変わっていないそうです。
次に続いているのは「世の中のためになる仕事(貢献)」の21.0%で、これは直近では徐々に増えていて、その次の「高い収入が得られる仕事(収入)」の20.6%は、前回調査までは比率が徐々に減って17.8%となっていましたが、今回は少し戻っています。世界の中での日本の低賃金傾向に対する不満や不安が反映しているのかもしれません。
他の選択肢としては、「責任者として采配が振るえる仕事(責任)」「世間からもてはやされる仕事(名声)」「働く時間が短い仕事(時間)」などがありますが、これらは過去の調査から一貫して比率が低く、「独立して人に気がねなくやれる仕事(独立)」という項目は、初回調査で17.3%あったものが最新では6.0%と、その数は三分の一近くに減っています。
これらの調査結果は、私自身が現場で感じる肌感覚ともおおむね合致しており、「安定志向の高まり」「人間関係重視の姿勢」「お金は大事だがそれだけではないという感覚」などの傾向がうかがえます。こういった結果は、これからの人事施策を考える上で大いに参考になるものです。
人事制度の視点でいえば、従来では「収入」「責任」「名声」といったものを動機づけの材料としているところがありますが、調査結果から見ると、「理想の仕事」では優先されない項目です。当初の成果主義があまり成功せず、全体の生産性向上につながらなかった理由の一つといえるでしょう。この社員意識に気づいている企業は、「専門性」という視点で人材育成を重視したり、「貢献」という視点で事業の社会的意義を強調したり、「理想の仕事」に合致する取り組みをおこなっています。
「健康」については、メンタルヘルスだけでなく健康経営といったキーワードもありますし、「仲間」については、社員同士のつながりを意識した様々な取り組みがされています。「失業」については、企業の立場では安定雇用が重要な要素でしょう。
「理想の仕事」が実現されていれば、辞める人は少なくなり、仕事が原因で体調を崩すこともなくなり、仕事の生産性は上がっていくはずです。
一部にこういう施策を「社員の甘やかし」という人がいますが、これらは業績向上や生産性向上につながる経済合理性に基づく取り組みであり、決して甘やかしではありません。
社員にとっての「理想の仕事」を目指す取り組みは、企業の健全な経営のためにも必要なことです。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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