「部下がちゃんと報告してこない」という話を、いろいろな会社のマネージャーの方々から聞くことがあります。
大きく分けると、「報告すること自体を忘れている」ということと、「あえて報告することを避けている」ということの二通りがあるようです。
「報告を忘れている」という人に聞くと、本人は本当に失念していて、ものすごく反省していたりするので、特に悪気は無さそうです。
忘れてしまうということは、物事の優先順位の捉え方に問題があったり、記憶力自体が不足していたりということなので、基礎能力に近い部分が原因ということになります。
これに対して「あえて報告することを避けている」というのは、ある意味確信犯ということです。
自分たちの立場ではどうしてもやらなければならない、それが間違っていないという確信があるような場合に、もし報告すれば確実に反対される、計画が実行できなくなるとなれば、あえて上司には知らせずに、自分たちで物事を進めてしまおうという気持ちもわからなくはありません。
また、必ずしも上司の判断が正しいとは限らないと考えれば、上司からの指示命令に自ら優先順位をつけて、「適度なやり過ごし」を行うことが、組織の強さにつながるという話もあります。あえて報告を避けるようなやり過ごしも、組織の中である程度は必要ということになります。
ただ、私がよく聞く内容は、どうもこれとは少し違う場合が多いように感じます。
それは「不備やミスを隠す」「自分に不都合なことを言わない」というような、言いづらいことを伏せていたり先延ばししているような内容が多いということです。
以前、修学旅行のバス手配を忘れ、旅行を中止させようと学校に自殺予告の電話をした旅行会社社員の話題がありましたが、これほどひどくはなくても、根本の心理としては似ているように感じます。
私が、この手の「あえて報告することを避けている」という人たちに共通して感じるのは、その方法が口頭であっても文書であっても、自分が考えていることを相手に整理して伝えることが得意でないということです。要は「報告すること自体が苦手」で、苦手なことは避けようとしてしまうということです。
報告がないことを上司から指摘された時、忘れていたと言いながら反省の様子があまり無い、理由も言わずに一方的に謝るだけ、理屈が通らないような言い訳、逆ギレのようにふてくされるなどという感情的な反応は、だいたいがこの「報告が苦手」という理由ではないかと思われます。
こうなると、「報告を避ける」という原因は、コミュニケーション能力や論理性の問題ということになり、どちらも基礎能力に近い部分の問題ということになります。これは「報告を忘れている」場合と同じです。
「あえて報告することを避けている」という行動には、優秀な部下の自律的な判断の場合と、基礎能力の不足による場合の両方があるということです。
このように、「報告をしない部下」の多くは、基礎能力に原因ありということになりますが、中には優秀さゆえに自己主張の場合があります。これには、部下が進んで報告したくなるような上司としての対応を意識することも必要になります。
もう言い尽くされたことかもしれませんが、「聴く耳をしっかり持つ」「頭ごなしに否定しない」「一方的に言いくるめようとしない」などということが、上司として必要な行動になるのではないかと思います。
このコラムの執筆専門家

- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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