毎年保険料が上がり、給付率は下がり、支給開始年齢も逃げ水のように遠のいていくと、
「どうせ自分たちのときにはもらえないんだから、こんな制度要らないよ」
と思う人がたくさんいます。
でも、本当に、年金制度はムダで要らないものなのでしょうか。
障害年金や遺族年金といった、若い世代、現役世代にこそ大切な保険の役割を果たすものがある、ということは置いといて、ここでは老齢年金に絞ってお話しします。
老齢年金の制度は、現役世代の納める保険料と税金を財源に、高齢者世代へ「年金」として仕送りをする「世代間扶養」の仕組みで成り立っています。
年金のない時代は、年をとって働けなくなったら子どもに養ってもらっていました。
国民年金が全面施行されて国民皆年金体制が整ったのは、昭和36年4月のこと。
だから、私たち昭和30年代生まれは、「親を養う」という概念を知っている最後の世代といえます。
「年金では一番おいしい思いをしている」
と言われる昭和一桁世代は、私の親の世代です。
その世代は、保険料を納めつつ親を養っていました。
(実際に養っていたのは本家を継いだ人だけかもしれないけど)
今、私たち夫婦は、親を養っていません。
仕送りもしていません。
せいぜい、盆暮れにお小遣いをあげる程度です。
養うどころか、息子たちがジジババからお小遣いをもらっています。
私は、ジジババからお小遣いをもらったりしませんでした。
子どもに養われている人からお小遣いをもらうなんてありえません。
国民年金制度ができたとき、すでに高齢だった人には昭和34年から「老齢福祉年金」が支給されることになりましたが、扶養している人の所得によってもらえない人も多く、私の祖母ももらえなかった一人です。
お年玉も、「おじさん」や「おばさん」からもらったのです。
息子たちがジジババにお小遣いをもらえるのは、ジジババが年金をもらっているからです。
私たち夫婦が仕送りをしないで済むのは、両家の親が年金受給者だからです。
私の両親は共働きでしたから、二人とも老齢厚生年金を受給しています。
二人の娘が嫁いでも、安泰です。
つまり、間接的にですが、48歳の私もすでに老齢厚生年金をもらっているのと同じ恩恵を受けているのです。
これがなかったら、と思うとゾッとします。
年金の世代間論争の中で、
「今のお年寄りの年金を減らせ」
なんて言う人もいます。
今まで引き下げるべきものを据え置いてきた分の適正化は必要ですが、それ以上に引き下げるのはどうなのでしょうか。
今から財産を増やすことのできないお年寄りの年金を大幅に引き下げたら、足りない生活費を私たち子どもが補填しなければなりません。
「ひと月1万円でも5千円でもいいから、頼める?」
と言われれば拒めませんよね。
現在の国民年金制度では、月額保険料が毎年280円くらい上がることになっています。
厚生年金の人は、月給30万円の人で531円です。
どちらがよいでしょうか。
(そんな単純じゃなくて、人情の問題もあるかもしれませんが)
老齢年金の制度があるおかげで、私たちは自分たちの生活だけやりくりすればよいのです。
この制度が存続すれば、私たちは将来、息子たちの世代の納める保険料と税金で養ってもらえます。
子宝に恵まれなかった人も、将来は他人様の子どもたちが仕送りをしてくれます。
そういう制度なのだということを、理解していただければ嬉しいです。
このコラムの執筆専門家
- 服部 明美
- (埼玉県 / 社会保険労務士)
- 社労士はっとりコンサルティングオフィス 社会保険労務士
お客様の「こころ」に寄り添う社労士でありたい
職場のメンタルヘルスと年金関連を得意分野としております。就業規則の作成や見直し、休職・復職規程、衛生委員会の運営指導、社会保険制度説明会等、原稿の執筆や講演、社員研修の講師依頼など、お気軽にお申し付けください。
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