経済産業省や経営者団体などの旗振りで、毎月末の金曜に消費活動を促す目的で2017年に始まった「プレミアムフライデー」は、結局定着せずに消えてしまいました。
当初は取り組みを歓迎、評価する声がある一方で、所得の伸び悩みや将来不安などが解決されなければ期待外れに終わるという指摘も当時からあり、結果としては後者の主張通りになってしまいました。
「プレミアムフライデー」が始まった当時、私自身が感じていたことを今あらためて見返してみると、定着しなかった理由につながると思われることがいくつかありました。
一つは、「仕事が早く終わったからといって、その都度出かけるわけでもなく、今までより余分に買い物をすることもない」ということです。
「消費が増える」とはならず、どちらかというと早く帰った分の給料はどうなるのかとか、月末金曜日の15時に強制終了されても、さすがに仕事は終わらないだろうとか、そんなことの方が気になるのではないかと思っていました。
もう一つは「この消費、サービスを提供する側にいる人たちには関係がない制度になってしまう」ということでした。
当時この取り組みを推進している団体には、小売や旅行などの業界が名を連ねていましたが、私がこういう取り組みに対していつも思うのは、その反対側にいる人たちで、小売業やレジャー産業や、飲食店や各種サービス業など、消費やサービスを提供する側の働き手のことです。
一斉に仕事の早い終業をうながしたり、休日や休暇を増やしたりしても、常にその反対側で働く人たちがいて、最近は特にそんな人たちの割合が増えています。
土日に働く人がどのくらいいるのかを調べたところ、詳細まではわかりませんでしたが、少なくとも20%前後はそういう人たちだという数字がありました。提供側にいる人たちは意外に多いと感じます。
「プレミアムフライデー」のような取り組みで対象になるのは、平日昼間の8時間勤務で土日祝日が休みの人たちが中心です。逆にそういう働き方でない人にとってはほとんど関係ありません。
提供側の働き手は、こういう制度が増えるほど、業務時間も増えていきます。その割に売上が伸びないなどとなれば、働いても稼げないという悪循環に陥ります。
私は当時から、休日や休暇、その他の「余暇時間」を「一斉に」与えるということで消費が伸びると考えるのは時代遅れと感じていました。
「時間の余裕」もありますが、その前提には「経済的余裕」や「心の余裕」があり、「一斉に」行動することによる非効率やコスト高もあります。
人の嗜好は多様化しており、優先順位はみんな違います。時間があれば旅行、買い物となる人ばかりではありません。欲しいものがなければ買わないし、行きたいところがなければ行きません。
これは今現在でも同じですが、それぞれの働き手が休みたいときに休める、早く帰りたいときに帰れるという環境作りの方が、よほど大切だと思います。サービスを提供する側もされる側も共通のことであり、繁閑の差が減った方がサービスの効率は上がり、利益も生み出しやすくなります。働く環境も向上するでしょう。
当時も今も、消費が伸びない理由は所得の伸び悩みや将来不安であり、それが解消されなければ消費行動はなかなか変わりません。そもそも今の日本の成熟した社会インフラと生活レベルの中では、消費されるものやサービスの中身も変わりました。ただむやみに消費するという時代はもう来ないと思われ、それを前提としたビジネスの方法や働き方を考えていかなければなりません。
「みんなで休める」よりは「自由に休める」「気軽に休める」の方が、より必要ではないかと思います。
このコラムの執筆専門家
![小笠原 隆夫](https://d32372aj5dwogw.cloudfront.net/home/profile/front/html/img/professional/ll/1324466174.jpg)
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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