私が企業支援をする中で、ごくまれに「特に制約はないので、思った通りに自由にやってください」
と言われたことがあります。
こんな時、私はできる範囲で情報収集をし、自分の判断で課題やテーマを設定して支援に着手しますが、「自由にやって」と言っていた経営者や担当者には、常にその内容を投げかけて考えを聞きます。
そうすると、前と同じく「自由にどうぞ」といわれることはほとんどなく、何らかの希望、要望、問題意識の違いや賛否が出てきます。それを調整しながら、依頼先の企業ができるだけ納得できる取り組みを探します。
「自由にやれ」といわれるのは、依頼者が課題を整理しきれていないだけで、本当に自由にやってほしいわけではありません。少なくとも、私の今までの経験ではそうだったので、「自由に」と言われたときの方が、かえっていろいろ気をつかいます。
同じような話が、例えば経験豊富で中心的な役割を期待して採用した社員に、「制約を作らずいろいろなことに自由に取り組んでほしい」などと言うことがあります。たぶん組織改革を期待した本心からの言葉で、その人が動きやすいように、やりやすいようにという配慮があるでしょう。
ただ、「自由に」と言われた本人は、はっきり言って困るはずで、どこから手をつければよいのか、何を優先すべきなのかがわかりません。組織の中にはいろいろな考えの人がいるので、状況を見ずに勝手に動けるわけではないですし、「自由にやれ」と思っている人ばかりではないでしょう。
結果として行動はより慎重になり、動き始めるまでの時間もかかってしまいます。
実は人間は、テーマや方針、要望、その他何らかの枠組みや制約条件がある方が、行動自体はしやすくなります。「自由にやれ」という言葉のように、裁量の範囲が広すぎると、かえって動きづらくなるのです。
例えば建築家が「住みやすい家を自由に作って」と言われたり、スタイリストが「私に似合う服を自由に選んで」と言われたりしたら、相手の希望や要望を聞き出すためにいろいろ話をすると思います。専門家として、自分の判断で「枠組み」「条件」を決めるためですが、結論にたどり着くには時間がかかりますし、結果が見当違いになる可能性もあります。
ここでは、依頼者がどんなにわがままでも常識外れな内容でも、何か範囲を決める糸口を言ってくれた方が対応は早くなります。制約があった方が選択肢を示しやすく、行動もしやすくなります。
これは創作活動をする芸術家でも同じで、手法、期間、材料、費用、技術など、何らかの制約の中で活動をします。自分自身で枠組みを決めるということはありますが、何らかの決まった範囲の中で作品を生み出します。
役者であれば脚本、台本の制約の中で、その人の個性を発揮します。
「自由に」「好きなように」と言われるよりは、要望や条件があった方が、それに対して「こういう方法」「こちらの方が大事」「それは無理」「ここまでならできる」など、話が具体的に、しかも早く進みます。投げかけられた人は、その方が行動しやすくなります。
「自由にやれ」という言葉が、実は相手の行動を鈍らせていることがあります。裁量と制約のバランスはなかなか難しいですが、相手に何か仕事を依頼する場合は、裁量が大きいほど良い訳ではないことを、よく考えておく必要があります。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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