「提案してこない」はそれを聞く側にも問題がある
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「そもそもうちの社員たちは、自分たちから提案なんてしてこないよ」とある会社の社長が言います。
人事施策上の課題をどう解決していくか考えている中で、社員から提案できる仕組みや部門横断の改善プロジェクトなど、社員が当事者意識を持てる取り組みが必要だという話から出て来たことです。
ちなみにこの会社では、今までも目安箱のような提案事項を集める制度や、改善を検討する社員チームを作ったことがあるそうですが、どれもうまくいかずに やめてしまったそうです。
うまくいかなかった理由を社長にたずねると、「提案レベルがあまりにも低かった」とのことです。
目安箱に入るのは、「○○制度を導入してほしい」「○○が欲しい」など、物を買う、設備を入れる、労働条件を改善するといった自分たちの利害主張ばかりなので、「もっと建設的な内容を!」と指示したところ、今度は提案自体がまったくなくなってしまったそうです。
社員主導の改善プロジェクトでは、一度提案書は出てきたものの、あまりにも実態からかけ離れているので再考を指示したところ、そのまま時間切れでうやむやに終わってしまったといいます。
ただ、社員の間では「社長が納得しなかった」「社長に提案がつぶされた」と見ているようで、好ましくない状況と考えて、社員プロジェクトはそれ以降やっていないそうです。
社長から見れば、社員が「会社の状況をわかっていない」「現実的な提案ができない」ということは問題ですが、社員からは「どうせ提案してもつぶされる」「何か言っても否定されるだけ」と見られていることが想像できます。
このような話は、実はかなり多くの会社で起こっています。現場意見の吸い上げや、より効果的な取り組みをと考えたボトムアップの制度が、思うように機能せずに結局はやめてしまったということです。
ここにはもちろん、「現実的な提案ができない」などという社員側の問題はありますが、それと同じくらい会社側の聞く姿勢にも問題があります。
実際にこの会社の社員プロジェクトの中で、社長はどのようなコミュニケーションをとっていたのかを聞いてみると、リーダーだけにプロジェクトの主旨を話してキックオフをさせ、途中一度だけ意見を求められて話した以外は、最終提案まで具体的な中身はほとんど知らなかったそうです。
目安箱の提案制度も、初めは1件も出てこない状況が続いたため、提出ノルマを決めて社員に指示ししたところ、今度はレベルの低い提案が続出し、それをさらに叱責したことで、その後は提案が尻つぼみになくなっていったそうです。
ボトムアップの仕組みを活性化するには、やはり結果が必要です。「社員からの提案が認められた」という実績です。
内容が多少ピント外れであったとしても、それを門前払いすることを続けていては、いつか提案自体がなくなります。心理学でいう「学習性無力感」と呼ばれる状態です。
これを避けるためには、会社として受け入れ可能な提案になるように、会社側からもコミュニケーションをとることです。強制や命令は禁物ですが、出てきた提案に対して質問をし、意見を言い、その答えを社員自身に考えさせるというプロセスをたどることで、「会社として望ましい提案」が「社員が考えた提案」となって出てきます。そうなれば、「社員からの提案が認められた」という実績につながります。
「社員からの提案がない」との言い分には、それを聞く側である会社にも問題があるはずです。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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