「強制」にならないように工夫する会社が伸びている
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会社に雇われて仕事をしていれば、自分の意に反することを会社から示されることはたくさんあると思います。
それが法律違反であったり、社会規範に反する行為であったりしては困りますが、例えば無理な業績目標、行き過ぎと感じる人員整理、納得できないやり方を要求される業務指示などで、ただ鵜呑みに聞かざるを得ないこと、反論や議論をしながらも受け入れざるを得ないことというのは、ことの大小を問わず、多くの人がさまざまな経験をしていると思います。
そんな中、私がこれまで多くの会社の様子を見てきて思っていることに、「強制が多い会社は業績が良くない」というものがあります。
これは、業績が下がってきたから制約条件や強制が増えていってしまうことと、組織化などと称して強制が増えていくために業績が下がってしまうことの両方がありますが、どちらが先だったのかははっきり区別はできません。
わりと典型的なのは、現場主義で業績を伸ばしてきた中堅中小企業やベンチャー企業が、生産性向上を目的とした、社内管理の仕組みやルールの整備を始めたところから、様々な形での「ノルマ」「強制」が生まれてきて、それが今までの良さや強さを阻害してしまって、業績の停滞や低下、社内ムードの沈滞や悪化を招いてしまっている場合です。
よく使われる「ノルマ」という言葉ですが、その語源を調べると、第二次世界大戦のシベリア抑留者が引き揚げてきて伝えたロシア語にあるらしく、各個人や工場などに割り当てられた「一定時間内に達成すべき労働量・生産量」をいうそうです。まさに有無を言わせぬ「強制」ということです。
こんな「ノルマ」や「強制」は、組織運営の中では必要なこと、やむを得ないこととして、ある意味あきらめているところも多いようです。
しかし、あくまで私が見ている限りでのことですが、この「ノルマ」「強制」が少ない会社の方が、業績は伸びていることを感じます。これは決して「強制」がないということではなく、会社としての方針、指示命令、仕組みやルールを、社員が「強制」だと捉えないような工夫、取り組みをしているということです。
例えば、上司から部下への日常の指示ひとつでも、上司は簡単に「このようにしろ」と命令はしません。上司の中に答えがあっても、部下にはやりたい内容や目的を伝え、進め方を一緒に考えます。こういうプロセスを取ることで、仮に最終結論は同じであっても、それは部下自身が考えた方法になります。手間はかかりますが、本人が納得しているのでその後の動きに迷いがなく、積極性が違ってきます。
また、社内の制度やルール作りでも、社員に途中で意見を聞く、検討に参加させるなど、プロセスに関与する機会をできるだけ作ります。意見自体は通ったり通らなかったりいろいろですが、プロセスに参加させることで、その後の納得性が違ってきます。検討に参加した社員が、他の社員への説明役にまわっていたりします。
会社が組織である限り、すべての強制を排除することはできませんし、究極の経営判断ではこんな社員参加の方法は取れないでしょう。ただ、業績が伸びている、社員が増えている、企業として成長しているような会社では、強制を強制と思わせない工夫や取り組みしていることが多いです。
会社として「ノルマ管理」や「強制」をしているつもりがなかったとしても、いつの間にかそんな状態に陥っていることが多いものです。
すでにわかり切ったことだと思いますが、「強制」は人間の行動意欲を思いのほか鈍らせます。それは会社にとっても、決して良いことではないと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
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