「意見」「要望」「提案」を聞くことには責任が伴う
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社員からの意見や提案、要望などの情報を吸い上げて、経営に生かしていこうという制度は、いろいろ考えられて実施もされています。
提案制度、自己申告制度、定期面談制度といったものは、そういう意図を持って行われますし、プロジェクトやワーキングチームのような形で、同じような効果を狙った取り組みが行われることもあります。私も社外専門家という立場で、こういう制度検討や運用を支援することがあります。
それぞれの結果をうまく活かすことができれば、すべてそれなりに意味がある取り組みですが、せっかくの取り組みが、あまり効果的になっていないケースは、数多くの企業で見かけることです。
そうなってしまう理由はただ一つで、「聞くだけ聞いても実行しないから」です。
例えば、自己申告制度などを行っているとすれば、本人のやりたい仕事や行きたい部署、その他仕事上の希望を聞いていると思いますが、話を聞くだけ聞いて、それをいつまでも実行しないということです。もちろん、希望通りになることばかりではありませんが、それが難しいのであれば、その事情なり理由なりを伝えればよいにもかかわらず、それすらもしていません。
何度言っても何も変わらないとすれば、これは「カマスの実験」と同じことが起こります。
「カマスの実験」とは、空腹状態のカマスと餌の小魚の間に、透明なガラス板を入れて仕切ると、カマスたちは小魚を食べようしますが、間仕切りのガラス板のせいで食べることはできません。何度もガラス板への激突を繰り返しますが、やがてカマスは餌が食べられないことを悟って、行動することを止めてしまい、その後ガラス板をはずしても、餌に近寄ろうとしなくなります。「学習性無力感」と言われるものです。
わりと有名な話で、日本一幸せな会社といわれる「未来工業」の提案制度は、社内環境や仕事方法などについて、改善提案を提出した社員にはその内容を一切問わずに500円が支給され、さらに優れた提案には、万単位での報奨金が与えられるそうです。
一般的な提案制度は、「採用されれば」何かしらの報奨はあっても、そうでなければ“無視される”ことが多く、そうやって無視される件数の方が圧倒的に多ければ、制度はどんどんすたれていくことになります。
ある会社の社長は、11月に全社員と面談をして要望を聞くことが定例となっていて、その期間はダメ出しばかりされるため、とても気持ちが落ち込む時期だそうです。中には「給料が安い」などという定番の要求もあるそうですが、そんなわがままに近い要求に対しても、何とか原資をねん出して少しでも給与アップを図るなど、何かしらの結果を見せようと努力しているそうです。
提案制度、自己申告制度、定期面談制度といった、社員の「意見」「要望」「提案」を聞こうという制度は、比較的安易に導入されることが多いと感じますが、そういう制度を機能させるには、言われたことに対応できる環境作りと、話を受け入れる覚悟が必要です。
社員からの「意見」「要望」「提案」などを聞くからには、必ず何か答えを返す必要があります。事情によって「それはできない」という答えはありますが、それが何度も続くようでは、結局は聞いていないのと同じことです。
「意見」「要望」「提案」を聞くことには、それなりの責任が伴うことを理解しておかなければなりません。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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