ある会社で、新入社員の頃から見ている社会人5年目の若手社員と、久しぶりに話す機会がありました。
新人の頃は本当に気弱で、面接時にもやっていけるだろうかと採用を迷ったような人ですが、久しぶりに話す中ではずいぶん変わっていました。昔のままの礼儀正しさを持ちながら、仕事に自信がついたのか、その様子から見える成長を感心しながらみていました。
ただ、周りで一緒に働いている人たちによると、彼の評判は必ずしも良くありません。上司である課長は、成長してきた点では私と同じ捉え方でしたが、「周りからの信頼はまだまだ足りない」と言います。はっきりしたことはわかりませんが、部下や後輩たちはどうも彼のことをあまりよく思っていないようです。
それからしばらくして、彼が後輩や女性の派遣社員と打合せをしている場面を、偶然見かけることがありました。驚いたのはその時の彼の態度や言動が、あまりにも高圧的で横柄だったことでした。気弱で礼儀正しいと思っていた彼とは、まるで別人のように見えました。
そのことを課長に尋ねると、「実は別の部下からも同じ話を聞いているが、自分の前ではそういうそぶりを見せないので、まだ直接注意できたことはない」とのことです。私が見かけたのはちょうど良い機会ということで、急きょ課長と私とで彼を面談して指導することになりました。
彼は素直に自分の非を認めて反省している様子でしたが、今後改善されるかどうかはもう少し観察する必要があります。これが性格的なものだとすると、改善が難しい可能性もあります。
この手の人は、心理学的には「権威主義的パーソナリティ」と言われ、どんな会社でも見かけることがある人です。
ちなみに、性格傾向としては、以下のようなものがあるそうです。
・強い者に従順で、弱い者に強圧的。
・偏見や差別意識にとらわれやすい。
・自分が所属している集団への帰属意識が極端に強い。
・善か悪か、敵か味方かという二価値判断におちいりやすい。
・思考がステレオタイプ。
・人を内面でなく肩書きなどの外面で評価する。
・縦の上下関係に敏感である。
・権力や金力を正義と結びつけやすい。
・容易に人を信用しない。
気を付けなければならないのは、こういうタイプの部下がいたとして、これが上司の立場からはなかなか見えづらいことです。今回は私が社外の人間ということで、上下の認識があいまいだったのか、油断をしたのか、そのあたりは分かりませんが、たまたまその場を見かけたことで指導することができました。ただ普通であれば、こういう話は別の社員からの伝聞くらいしか情報が得られないので、実態をつかむのがなかなか難しくなります。
これはあくまで私の経験上のことですが、これを見極めるための視点の一つとして、「自分に自信のない人、コンプレックスがある人ほどこの傾向がある」ということです。自分に自信がない、認められていないなどと思っている人ほど、虚勢をはる必要にかられてしまうのです。
管理職になった途端に威張り始めるような人はどんな会社にもいますが、それは会社として、人材の見極めが不十分だったということになります。
上司の立場から見た良い部下は、その本質が見えづらいことがあります。従順で扱いやすいと思う部下ほど、二面性や裏表がないかに注意する必要があります。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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