それぞれまったく別の二つの会社から、まったく同じような懸念の相談がありました。様々な事情から、「一人だけ」を採用することになった新入社員についてです。
一社は過去に新入社員を採用した実績はあるものの、経営体制が変わるなどの事情があって、ここ数年間は新卒採用を行いませんでしたが、今期たまたま紹介を受けた学生を一人だけ採用することになったという会社です。
もう一社は、これまでコンスタントに新卒採用をしてきましたが、今期の業績が厳しいために見送りを考えていました。しかし、世代の断絶は良くないということから、結果として一人だけ受け入れることにしたという会社です。
どちらも、新人はしっかり研修をして、早く一人前に育てたいという意識が強い会社で、今までは社内でじっくり研修していましたが、今回は一人だけなので、社内では満足な研修が組めないことから、3か月ほどの期間の外部研修に行かせることにしたそうです。
ここでの心配が、新入社員の自社への帰属意識です。どちらの会社もとても心配していて、私もアドバイスを求められましたが、大事なこととしてお伝えしたのは、心理学でいう「単純接触効果」もしくは「単純接触の原理」といわれることです。
これは「個体間の親密さは、接触回数、接触頻度が多ければ多いほど増す」といったことで、人間関係で言えば「顔を会わせたり、話したりする回数、頻度が増えるほど、相手に対して好感を持つ」というものです。
これに基づいてやるべきことは単純で、外部研修を受けている新入社員の様子をできるだけ見に行く、メールや電話でよく話をする、食事やその他、いろいろな方法でできるだけ頻繁に接触するように心がけることです。
これはある会社であったことですが、配属直後から客先に1人で常駐することとなってしまった新入社員の上司が、その新人に「用事があってもなくても、毎日17時に必ず電話連絡をしてくるように」と指示をしました。
この新人は、初めのうちはそこまで毎日上司と話す話題もないし、いちいち面倒だと思っていたそうですが、それが習慣になってくると、「ああ、今日はこの話をしよう」などと、その日にあったことを考えるようになったそうです。そして、ふとしたある日、自分の上司や自分の会社のことを、はっきりと意識するようになったと言っていました。
上司の方では、毎日新人の電話の相手をしなければならずに大変だったと思いますが、会社への帰属意識という点では好ましくない環境だったにもかかわらず、その新人の気持ちをしっかりとつなぎとめたのは、とても素晴らしいことだと思います。
この「単純接触効果」、「単純接触の原理」は、離れたところにいる新入社員でなくても使えるものです。信頼関係を作ったり、コミュニケーションを円滑にしたりするために、接する回数を増やすというのは、単純なことですが意外に効果的です。
世代や価値観が違う、共通の話題がないなどといって、お互いが接することをついつい避けていたりすると、コミュニケーションが悪くなって、仕事の上でもその影響が出ていることがあります。
もしも、自分の身近に今一つ折り合いが良くない上司や部下がいるならば、まずは単純に接する頻度を増やしてみることが、意外に良い方法なのかもしれません。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
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