身近には意外に少ない「ダメ出ししてくれる人」
-
あるテレビ番組で、高齢者の限定免許が検討されている話題が取り上げられていました。75歳以上では、自動ブレーキや踏み間違い防止などの安全装置がついた車の運転に限るなどの案のようです。
一つの対策ではあるものの、75歳以上であっても問題ない人はいるでしょうし、反対にそれ以下の年齢で危険な人もいます。年齢で区切る難しさが話されている中で、出演者の一人だった俳優さんがこんな話をしていました。
ご自身は年令とともにセリフが覚えづらくなり、特定の人名や地名などが全然入ってこないことがあるそうで、直近ではある舞台でセリフが飛んでしまって、冷や汗をかくことがあったそうです。そういうことが年を重ねるにつれて頻繁に起こるようになったと感じているそうです。
そんなことから、自分ではまだ大丈夫だと思っていても、実は他人から見ると危ういことがあると思い、ご自身のマネージャーには「ダメだと思ったらダメだと言ってくれ」と伝えているそうです。「自分の衰えを自分だけで自覚するのは難しく、誰か第三者の目が必要だ」と言っていました。
この話で、私自身も思い当たることがいくつかあります。
一番は、ダメ出しをされたり何か指摘を受けたりする機会が、年齢とともに減って来ていることです。
自分よりも先輩にあたる人からは、今もいろいろ指導してもらえますが、自分の年齢が上がるとともに、周りからそういう人は減っています。
コンサルタントとして仕事をしているので、あまり好ましいと思っていないものの、周りからは指導者役として扱われることが多くなり、そんな関係性では、何かを指摘されたり、ダメ出しをされたりすることが非常に少なくなります。また、ダメ出しは契約終了なので、何かあってもそれを修正する時間の猶予は得られません。
忌憚なく意見を言ってもらったり、意見の違いを言い合ったりする関係は、かなり意識的に作らなければなりません。
同じことは、会社の経営者や管理職にも言えます。偉くなるほど苦言を呈してくれる人が少なくなり、自分で気づきを得る機会は減っていきます。
自分の身近に指摘やダメ出しをしてくれる人がいる経営者や管理者は、何か判断を間違ったときの修正が早いですが、そういう人は、自分で意識してダメ出ししてくれる人を身近に置いています。
自分を客観視する意識は重要ですが、100%自分でやるには限界があり、やはり「信頼できる第三者」が必要です。
さらに、年齢が若くても、同じく自分にダメ出ししてくれる存在は大事ですが、最近は様々な理由で、それがやりづらくなっている様子が見受けられます。
例えば、若手がなかなか納得せずに説明を求め続けるために、上司が根負けしてそのまま放置するケースがあります。納得した上で行動したい若手の考えはわかりますが、それに対応する上司は、かなりの根気が必要です。根気が尽きてしまう上司の気持ちもわかります。
自分の納得を優先し過ぎることで、経験するチャンスを失うかもしれず、時には半信半疑でも、指示に従ってみることで何か得られることもあるでしょう。
正直言って「煙たい存在」になりがちな、「ダメ出ししてくれる人」ですが、意識的に求めなければ、そういう人はなかなか身近には現れません。
どんな立場にいる人も、自分に対して「ダメ出ししてくれる人」の存在はとても貴重です。
そういう人がいるならばその人を大切にして、もしいないならば自分なりに見つける努力が必要だと思います。
このコラムの執筆専門家

- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
組織が持っているムードは、社風、一体感など感覚的に表現されますが、その全ては人の気持ちに関わる事で、業績を左右する経営課題といえます。この視点から貴社の制度、採用、育成など人事の課題解決を専門的に支援し、強い組織作りと業績向上に貢献します。
「社員にやる気を出させるヒントになるエピソード集」のコラム
「管理職になりたくない」の気持ちを変えられるか(2024/03/20 21:03)
有名店の店主がいう「得する客」の話(2024/01/17 23:01)
「厳選採用」とは反対のやり方(2023/12/13 18:12)
「アットホームな会社」とは何なのか(2023/11/15 18:11)
“無駄”と思えないから減らせない「無駄な会議」(2023/11/08 16:11)
このコラムに関連するサービス
当事者では気づきづらい組織風土の問題をアドバイス。同テーマ商品の対面相談版です。
- 料金
- 6,000円
「今一つ元気がない」「何となく一体感がない」など、職場の風土や雰囲気に関する悩みについては、当事者しかわからない事情とともに、当事者であるために気づきづらい事もあります。これまでのコンサルティングで、活気を維持する、活気を失う、活気を取り戻す、という様々な事例、プロセスを見た経験から、会社状況に合わせた原因分析、対策をアドバイスします。(同テーマのメール相談を、より詳細に行うための対面相談です)

このコラムに類似したコラム
「恵まれていること」に気づかなくなっている話 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2023/05/31 22:08)
自分の能力の「上げ底」がわかっているか? 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2020/02/25 08:00)
「高い自己評価」と同じく接し方が難しい「過小評価と自己犠牲の人」 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2017/08/08 08:00)