短所は「直す」ではなく「行動を足していく」
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よく長所と短所は裏表の関係だと言われます。
例えば長所は「慎重」だが、短所は「作業が遅い」であったり、長所は「集中力」だが、短所は「視野が狭い」であったりしますが、結局は同じ特性を違う視点から見ているにすぎません。
特に日本人的な傾向として、長所よりも短所に注目しがちなところがあります。ミスを減らす、不備や不具合をなくすなど、短所や欠点を少しでも減らそうと様々な努力をします。
ただ、長所と短所が裏表ということからすると、短所を直せば当然その裏側にある長所も消えてしまいます。また、「短所を直す」というのは「苦手なことに取り組む」ということなので、どうしても時間がかかります。
欠点が指摘されることから始まる、要はダメ出しからのスタートなのであまりうれしい気持ちにはなりません。気持ちが乗りにくいので、取り組むスピードはどうしても遅くなりがちです。
こんなところから、あまり短所にとらわれ過ぎず、「長所を伸ばすこと」を中心にするとか、長所に注目する一環で「褒めて育てる」ということが言われます。そうやって接している様子を見ていると、確かにその方が効果的に見えて一理あるように感じます。
その一方、短所にあえて目をつぶり、放置してしまっている感覚は拭えません。
こんなことを思っている中で、ある人から次のようなことを言われました。
「短所を直すと長所も減る」
「直すのではなくて、行動を足していけばよい」
短所を「直す」と考えると、どうしても「○○をしない」「○○に気を付ける」「○○をやめる」など、行動を抑制することが多くなります。全体の行動量が減り、それに合わせて長所にあたる部分の行動も減っていってしまいます。
これを、短所が長所に転換してプラスに働く行動、取り組みを増やしていくということです。
例えば「慎重」が長所であったならば、スピード優先の仕事では「慎重」という特性は「作業が遅い」となってしまいますが、いくらスピードが優先と言ってもミスしてよい仕事はありません。ここで「行動を足していく」という考え方をすれば、より「慎重」に振る舞うことでミスによる手戻りが減り、総合的な作業スピードは上がります。長所として評価される行動を増やしていくことで行動の総量が増え、相対的に増えた長所によって短所の部分は目立たなくなっていきます。
また、本人がそういう努力をするとともに、上司をはじめとした周りの人が「適材適所」を考えることも重要になります。
ある会社では、営業職ではなかなか成果が出せなかった人を、営業管理強化という名目で、営業部門のバックオフィスに配置転換をしたことがありました。「口べた」「人見知り」「交渉や駆け引きが苦手」という、およそ営業職には向いてなさそうな人でしたが、配置転換したことで「緻密な細かい作業が得意」という長所が活かされ、部内のスケジュール管理や各種のデータ収集と取りまとめ、営業資料の作成などがスムーズになり、全体の売上アップにつながったということです。
苦手な営業で苦労していた経験から、例えばどんな営業資料があれば説明がしやすいかといった発想を持っており、その後も様々な管理資料や営業資料がどんどんプラスして整理されていったそうです。まさに「行動を足していく」を実践した結果といえるでしょう。
長所と短所の関係をみたとき、短所を「直す」ではなく、それが長所になるように「行動を足していく」という考え方が、より実践しやすく効果的だと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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