「結果主義」ばかりでは間違うことがあるという話
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もう10年近く前の話ですが、その当時お手伝いをしていた会社を訪問した時、ある課長を紹介されました。
社長が言うには、これまで何年も継続してコンスタントな成果を上げている人で、翌月からの部長昇進が決まっているそうです。とても温和な人で、「部下たちが優秀で、全員良くやってくれたおかげ」などと謙遜しています。話を聞いている限り、部下たちとの関係性は良さそうです。私からは「頑張ってください」とだけ伝えました。
その数か月後ですが、この会社の社長から相談をもらいます。紹介された新任部長が、どうも行き詰まっている様子で、話を聞いてアドバイスして欲しいとのことです。
本人にお会いすると、確かに少ししょんぼりしていて、どうも新しい担当部門であまりうまくいっていないらしく自信を無くしている様子です。
まずは今の状況や自身の行動、周りの様子などを聞いていきましたが、そこで気づいたことがいくつかありました。
一番大きかったのは、本人の課長時代の成功パターンが、今の部門ではまったく通用していないということでした。本人は自分の過去の経験から、できるだけ部下の要望を聞いて仕事をしやすい環境作りに努めていたつもりのようですが、今の部下たちからは「適切な指示がない」「方針を示そうとしない」など、リーダーシップに関する批判があるようです。
本人は部下と真摯に向き合っているつもりなのに、それを批判されるという経験したことがない状況に陥って、何をどうしたら良いのかわからずに混乱してしまっています。
さらに、以前担当していた部門の現状を尋ねてみると、後任には経験が浅い新任課長が来たものの、それまでと変わらず順調な仕事ぶりだそうです。この部門には営業センスと技術スキルに長けた二人のリーダーがいて、現場の仕事上のことはこの二人がほとんどを仕切っているそうです。
そんな優秀な部下がいる部門なので、そこでの課長の仕事は彼らの要望を聞き、それを会社に通して環境作りをし、相談があればアドバイスをするということが大半だったようです。初対面の時には謙遜だと思った「部下たちが優秀なおかげ」という言葉には事実の部分がかなりあり、過去の成果は現場の力によるところも大きかったということでした。
こういう話はどこの会社でもよくある話ですが、ここでの唯一の問題は、新任管理職の過去の成果が生み出された理由に対する検証が、ただ目に見える結果だけでおこなわれていたことです。
このように「結果主義」に偏ったせいで判断を間違うということは、企業の中では意外に頻繁に起こります。
例えば管理職の話であれば、一から事業を起こすのが得意な人は、ある規模まで行くと業績を伸ばせなくなるとか、小規模の営業所をエースとして仕切っていた人が、大きな営業所に異動した途端にまったく影が薄くなってしまったとか、業績悪化を止められる人がその後反転させることができないとか、個人の適性に関わって起こることはいろいろあります。
その理由が仕事の進め方なのか、環境なのか、人間関係によるものなのかなど、なぜそうなっていくかはやはり仕事のプロセスをよく見なければ判断できません。
「結果を出している」という人材を抜擢したら期待外れだったというような話は、どんな会社からも聞きます。そこには事前の見極めで回避できることも相当あるはずで、そのためにはいかに結果だけにとらわれずにプロセスもしっかり見ていくことに尽きます。
「結果主義」ばかりでは間違ってしまうことが大いにあります。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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