消費税の軽減税率が導入されましたが、特に外食とテイクアウトの線引きに関する運用が、かなりあいまいになっているようです。テイクアウトは軽減税率の適用で8%、外食は適用外で10%ですが、フードコートやコンビニのイートイン、持ち帰りができる飲食店などで、なかなか線引きが難しくなっています。
軽減税率のそもそもの目的は、「食品などの必需品の税率を下げて税の逆進性を緩和する」ということで、他の国でも導入されています。しかし、どの国でも同じように線引きに関する問題を抱えていて、そこに利権が産まれてしまうこともあるようです。日本でももう少しよく考える必要があると思います。
それはさておき、このように「白黒はっきりつけること」が難しいものは、他にもいろいろあります。
例えば車のスピード違反ですが、明確な制限速度は決まっているものの、現実に違反切符を切られるのは、それほどキッチリと線引きされている訳ではなく、「10キロ程度までの超過なら大丈夫」といったグレーゾーンのような運用があります。
ビジネスマナーでは、一般的とされる原理原則はありますが、実際にはその場の状況や雰囲気、相手との関係性などによって、対応には微妙な差が出てきます。人によって良しとする形が違ったりします。
なぜそういうことが起こるかというと、車の速度制限は「安全とスムーズさを両立した交通を維持するため」、ビジネスマナーは「相手との良好な関係作りのため」というそれぞれの目的のために、あえて「白黒はっきり」としない方が都合が良いからです。
同じようなことが、企業の「人事制度」の中でもあります。最近はあまり見かけませんが、よくある5段階評価ではなく、イエスかノーか、できたかできなかったかで白黒がはっきりつくチェックシートのような形で評価をする会社があります。
確かにあいまいな評価が良くない場合はありますが、仕事として取り組んでいることを、「できた」「できない」や「成功」「失敗」など、すべて二択で明確に切り分けることはたぶん不可能です。それをするには、多少理不尽でも無理やりどちらかに決めるしかありません。
人事制度の目的でいわれるのは、「人的資源を活性化して会社の業績向上につなげること」です。
人事の施策は、それが具体的にどんな効果があったのか、それともなかったのかということは、いろいろな角度から総合的に見ていかなければわかりづらいところがあります。その施策の背景にある個人の能力や適性、業務内容、メンバー構成、職場環境など、多くの要素が複雑にからみ合っています。これを単純な二択に落とし込むには、無理やりに「白黒はっきりつける」しかなく、それは結局そもそもの目的にはつながりません。
最近の人事施策の企画や実行の際には、様々な情報をできるだけ数値化したり、定量的に捉えたりする試みがされていて、徐々に成果も出るようになっています。それでも最終的に「これが良い」「これは悪い」と明確に切り分けるところまでは難しいですし、私はそもそもそこまで明確な線引きをする必要はないと思っています。それがかえって本来の目的から遠ざけることになるからです。
絶対に公正でなければならない軽減税率などでは、あいまいな線引きは許されませんが、それならばもっと明確な線引きが可能な運用でなければなりません。税率が異なる持ち帰りと店内飲食をいったりきたりすることができてしまうようでは、実際の線引きは難しいでしょう。
そういうものを無理矢理に「白黒はっきりつけよう」とすればするほど、そもそもの目的から離れていってしまいます。そういうものは他にもたくさんあります。
本来の目的のために、あえて「白黒はっきりつけること」をしない方が良い場合があります。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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