よく「報連相が大事」などと言います。確かに上司の立場からすると、部下が報告してこないと何がどうなっているか把握できないですし、何より管理することができません。
では報告してくる部下は「良い」部下と言えるでしょうか?
例えば、この「良い」を「安心できる」に言い換えてみると、確かに報告してくる方が、自分は状況が把握できて安心でしょうし、報告がないと何がどうなっているかわかりませんから、不安になるでしょう。
次に「優秀な」と言い換えてみるとどうでしょう? 何でも逐一報告してくる部下は、自分で考えないで、何でも指示を仰ごうとする傾向がありますから、優秀かというと必ずしもそうではなく、逆にほどほどに報告しながら自分の判断で動いている者の方が、優秀といえる面はあるかもしれません。
さらに「仕事を成功させる」としてみるとどうでしょう? やはり必ずしもそうとはいえないはずです。また部下の立場から見たときに、上司に真面目に報告すれば仕事がうまく行くと思っているでしょうか・・・。 ものすごく知識と経験がある、神様みたいな上司や管理者だったら、きちんと報告する方が成功度合いは高いでしょうが、そんな人はめったにいないでしょうから、きちんと報告していれば仕事がうまく行くとは限らないでしょう。
(もしもきちんと報告した方が自分の仕事がうまく行くならば、部下は進んで報告してくるはずですね・・・。)
「報連相」というと、原則的にはマネジメントをする上で大事なものですし、私もそんなテーマの研修をやったりします。ただ、一般的な組織論では、上司が間違った指示を出す想定はありませんから、「報連相を確実にする」となるのですが、場合によっては、現場の事をよく知らない上司が、報告内容だけを基に指示を出す訳で、的確でない間違った指示になることは多々出てきてしまうでしょう。実際の現場では、当事者で決めて事後報告だったり、上司の指示とは違う方法を取ったりなどということは、かなりの頻度であると思います。(震災での原発事故の件などは、まさにこの典型のように思います。)
いくらマネジメントの原則だからと言って、それをかたくなに遂行しようとすると、実際には効率的な組織では無くなってしまいます。
私が思う理想の組織は、現場ではいちいち指示されなくても適切な判断のもとに実務を回し、経営者や管理者はそれを見守りながらそれぞれの立場でなければできない仕事に徹し、もし現場だけでは手に負えないことが起こった時にはみんなでそれを支援するという形です。もしも経営者と現場で同じ次元の判断ができるなら、現場に任せた方が動きも早いし効率的です。可能な限り権限委譲を進めるという事です。
一般的なマネジメント手法というのは、管理する側の都合がほとんどです。知らないと不安とか、指示が出せないとか、責任が取れないとか・・・。さらに言うと自分の上司に報告するために部下から報告させるなど、成果に結びつかない無用な“管理のために管理している”というような、本末転倒の事が意外にたくさんあります。
上司の側から「報告をしろ!」とうるさく要求するという事は、裏を返せば「自分は現場を知らない」と宣言しているようなものかもしれません。
ならば思い切って“任せてみる”、“信じてみる”、“見守ってみる”など、少し受け身と感じるような接し方が、実は良い組織を作り出すことにつながりやすいように思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
組織が持っているムードは、社風、一体感など感覚的に表現されますが、その全ては人の気持ちに関わる事で、業績を左右する経営課題といえます。この視点から貴社の制度、採用、育成など人事の課題解決を専門的に支援し、強い組織作りと業績向上に貢献します。
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