これはすでにいろいろなところで取り上げられていて、多くの人に共感されているものなので、ご存知の人も多いかもしれません。私も最近たまたま思い出すことがあったところです。
この「人を叱るときの4つの心得」は、ラグビー日本代表として活躍し、2016年に53歳の若さで亡くなった平尾誠二さんを偲ぶ会において、親友でノーベル賞受賞者の山中伸弥博士がおこなったスピーチの中で紹介されたものです。
その内容は、以下のようなものでした。
(1) プレー(行動)は叱っても人格は責めない。
(2) 後で必ずフォローする
(3) 他人と比較しない
(4) 長時間叱らない
見ればみんなが納得できる内容で、「ああその通り」という感じでしょうし、こうやってポイントを絞って的確に整理しているのはすばらしいことです。
ただ、これらすべてを実践するのは、そう簡単なことではありません。
私自身が自己評価をしてみると、(3)の「他人と比較しない」と(4)の「長時間叱らない」は何とかできていると思いますが、(1)と(2)は、一応意識はしているものの、相手が触れられたくないことに触れてしまっている可能性がありますし、フォローすることが漏れてしまっていることもあり得ます。あくまで自己評価なので、もし他人が評価したら、もっと低い点数になってしまうかもしれません。
これらを実践することが難しい一番の理由は、受け止め方の基準すべてが、叱られている相手の感じ方次第だからです。
人格を責められたと感じていないか、フォローしてもらったと思っているか、ちょっとしたニュアンスで誰かと比較されたと感じていないか、どのくらいの時間だと長時間にあたるのか、それぞれのとらえ方は人によって違うはずです。
そして、たぶん平尾さんもそうだったと思いますが、この4つの心得を基本に置きつつ、選手一人一人がどんな捉え方をしているのかを常に観察していたはずです。
例えば、他人との比較には敏感な人も鈍感な人もいるので、相手に応じて言い方を変えるでしょうし、フォローのしかたによっては、叱ったことの打消しやご機嫌取りになりかねないので、言い方や言う時期、内容にはいろいろ気を配ったことでしょう。
叱ることによって、本人の気づきや認識の変化があり、行動改善や能力アップにつながればよいですが、この方向を間違うと、萎縮や迎合、モチベーション低下といったことも起こり得ます。
「4つの心得」という旗を掲げ、その上で各メンバーへの対処をして、最適解を得ようとしていたのは、まさに優れたリーダーだと言えます。
山中伸弥博士はスピーチの最後に、「君のようなリーダーと一緒にプレーでき、一緒に働けた仲間は本当に幸せです」と話されていました。本当にその通りと思いますし、リーダーの役割がいかに大事かという証でもあるでしょう。
リーダーの言動や行動、態度の一つ一つが、メンバーたちに大きな影響を与えていることを、リーダー自身は十分に認識しなければなりません。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
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