ある知りあいの社長には、自分の後継者と考えている期待の人材がいます。
社長からは常に期待と信頼を伝え、様々な場面に同行させて、自分が持っているものをその人にできるだけ伝えようとしています。期待されている本人も、社長の思いを理解して一生懸命に頑張っています。
社長によれば、まだまだ不足していることも多いようですが、自分の力がおよぶ限りは支えていこうと考えているとのことです。
一方、別の会社のある部長ですが、毎日の仕事で大きなストレスを抱えています。
聞けば自分の部下たちが、思うような行動、働きをしてくれないそうです。部下のレベルからすれば、いちいち指示されなくてもやるべきことなのに、それが実行されていなかったりします。考えればわかりそうなことが放置されていたり、手を抜いたりしていることがあり、勝手に違うやり方をして不都合が出ていることもあるそうです。
部長の役割として割り切っているつもりですが、そんなことをいちいち指示しなければならないストレスから、「なぜこんなことができないのか」という部下への不満が、日々募っているとのことです。
私自身は、このどちらのケースも経験したことがありません。
前者のように、自分が思い入れを込められる人材に出会えていないということでは、あまり幸せではないのかもしれません。
後者で言えば、若い頃は他人の行動や言動に対して、非常識とか無責任とか能力が足りないとか、その他不満を感じることはありました。しかし、いろいろ経験を積む中で、「他人が自分の思い通りにならないのは当然で、期待通りになる方が稀である」という考え方をするようになってからは、そういう感情がほとんどなくなりました。
タレントのタモリさんの言葉として紹介されている中に、「他人にも自分にも期待しない」というものがあるそうです。そうすれば、他人に対していちいち感情的にならずに済み、人間関係も円滑になるそうです。
「他人への期待」が良い効果を生むのは、「適切な人材に適切な期待をして、それを相手に伝えることでやる気につなげる」ということです。逆に悪い効果を生むとすれば、「過剰な期待をして、達成されないことで相手を非難する」という場合です。
前者の社長は、長い付き合いで気心が知れた、信頼している相手に対する実現可能な期待であり、この期待を伝えることが相手のやる気にもつながっています。
これが後者の部長の場合、過剰な期待が混じっていて、達成できないことで部下を責めている可能性があり、もしそうであれば部下のやる気を削いでいるかもしれません。
「他人に期待しない」というのは、自分へのストレスはありませんが、相手に良い刺激を与えることもありません。一方「他人に期待する」ということは、思い通りにならないことが多くても、相手のやる気を促すことができるかもしれません。
より好ましいのは、この両方を使い分けることであり、前提となるのは「適切な人材に適切な期待をする」ということです。
私の場合であれば、もっと積極的に「他人への期待」を伝えていくべきなのかもしれません。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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