自分のことを棚に上げた「無意識な」批判
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組織風土調査と、課題改善の人事施策企画というテーマで、ある会社にうかがったときのことです。組織の上と下の間の溝が大きく、コミュニケーションギャップやモチベーション低下などにつながっているのではないかという問題意識です。
実際に調べていくとその溝は思いのほか深く、特に若手から中堅クラスの社員は、会社への不信や不満の感情をかなり強く持っています。「こんなことがあった」「あんなことはおかしい」という上司や会社の動きに対する批判ですが、そこに共通していたのは「強制されることがあまりにも多い」ということでした。
この会社は、社長がかなりのワンマンで、周りの意見をあまり聞かずに一方的な調子で指示を出すことが多いです。それに嫌気がさして辞めていく人も多いようですが、社長は「嫌なら辞めればよい」などと意に介していません。
他の経営幹部やリーダーたちは、社長のそんな姿勢を批判しますが、この幹部やリーダーと一般社員との間にも、かなり大きな溝があります。社長を批判しているにもかかわらず、リーダーたちの部下との接し方は社長のワンマンスタイルとそっくりなのです。
昔の部活動で、上級生のいじめで嫌な思いをした下級生が、自分が上になっても同じように下級生をいじめている例と似ている気がしますが、自分にその経験しかなければ、無意識のうちにそれに染まっているのは、よく見かける光景です。
さらに、不信と不満がいっぱいの若手や中堅社員に、「この状況をどう解決していくか」と尋ねると、多くの社員が私に、「社外専門家として社長や管理者を説得してほしい」といいます。要は「社外からの権威で抑え込んでほしい」ということです。
この会社の様子を観察していて、要所で見られるのは「有無を言わさず従わせる雰囲気」「上意下達の強い風土」です。上司の指示命令の仕方は少々乱暴に見えますし、部下は部下で、何か問題が起こるとすぐに「上司からその人を指導してもらう」「上司から命令してもらう」など、自分たちの課題や要望を、上司の権威によって抑えつけようという姿勢が見えます。
「強制されること」を批判している一般社員も、他人を強制することで問題を解決しようとしています。自分がそういう環境しか経験していないので、無意識のうちにそれに染まっているということでしょう。
例えば、自分の親を批判していても、自分の子供には同じことをしていたりします。最も身近な親のモデルは自分の親であり、日々の生活を通じて意識に刷り込まれているので、よほど気にして反面教師にしない限りは、無意識に同じ行動になりがちです。
これは会社でも同じで、上司の行動を批判してきた人が管理職になると、それまで批判してきた上司と同じような行動を取ることがよくあります。上司のモデルとして自分の引き出しに残るのは、批判してきた上司が中心になるので、特に無意識の行動は似かよってきます。
これを解決するには、無意識の部分を「意識する」しかありません。自分の行動を振り返り、同じことをしないように自覚することに尽きます。無意識が蔓延すると、いつの間にかそれが全体の風土になり、なかなか変えられなくなっていきます。
「人の振り見て我が振り直せ」といいますが、しっかり意識しなければ、実際にはなかなか難しいことです。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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