仕事には、その人によって向き不向きがあります。会社の中では「適正配置」などといって、その人にできるだけ向いている仕事を与えようと考えるのが一般的でしょう。
「向いていること」というのは、言い換えるとその人が「得意なこと」です。できるだけ多くの人が「向いていること」「得意なこと」に取り組んだ方が、生産性は間違いなく上がります。
こんなことから、採用、配属、昇格といった場面で様々な適性テストを実施したり、効果的な能力向上を見据えた教育研修などを行ったりします。
私も今まで、適性テストの結果というものは、膨大な人数を見てきました。そういう中で、本人がやりたいと言っている仕事や周りがやらせたいと考えている仕事と、それに対する適性判断の間には、もちろん差はあるものの、まったくかけ離れていてかすりもしないようなことはほとんどありません。
本人がやりたいことは、自分で興味があることですし、周りがやらせたいことも、何らかの適性があるように見えていることでしょうから、この適性判断と実際にやっている仕事が大きくかい離していることは少なく、テスト結果でベストではなくても、ベターとされたいくつかの仕事の中に、実際にかかわっている仕事が含まれていることがほとんどでしょう。
ただ、ある企業の採用面接をお手伝いした時、私も今までで初めてかもしれないという経験をしました。
応募者はその業務をもう20年近く担当しているベテランで、それなりの経歴を持った人でしたが、お話を聞いていると、これまでの経験に自信がなさそうで、自分でも未だに「向いていない」などと言っています。何よりも強く感じたのは、仕事は仕事と割り切っているというか、とにかく仕事に対する受け身の姿勢が強いということでした。
はじめは単に職業意識が低いだけなのか、もしくは他に収入のあてがあって、必ずしも自分の仕事に生活がかかっていないというようなことか、そんな理由を考えていました。
この会社では、中途採用の候補者にも適性テストを行いますが、この人のテスト結果を見たとき、面接で感じたことの理由がわかった気がしました。実際にやっている仕事とテスト結果の上での業務適性の間に、まったくと言ってよいほど接点がなかったのです。
つまり「向いていない仕事」をかれこれ20年以上やり続けているということになりますが、その結果として起こっていたのは、受け身姿勢の強さ、仕事は仕事という割り切り、キャリアアップ意識の薄さでした。
その仕事にかかわるようになった経緯を聞くと、人手が足りなかったらしい会社の事情と、押しが弱くてNoと言えそうにない本人と、とりあえずやってみたら、ほどほどにどうにかなってきてしまったといういくつかの偶然が重なって、ほぼ「向いていない仕事」をやり続けるという、めったに起こらない状況になってしまったようです。
その結果は、本人にとっても会社にとっても、あまり幸せではないように感じますが、これを変えるために考えられる方法はただ一つで、本人にあらためて「向いている仕事」を探して任せるということです。
「今さら」と思う人が多いのかもしれませんが、「向いていること」は「得意なこと」です。得意なことへの手遅れは、私は絶対に無いと思っています。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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