組織改編のせいで行動することを避ける社員たち
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年度の切れ目は、企業では組織改編と人事異動の季節です。
なぜ組織改編や人事異動をするかと言えば、
・事業環境の変化に向けた対応
・昇格や昇進によるモチベーションアップの視点
・対象者にいろいろな経験を積ませる人材育成の視点。
・腐敗や癒着を防ぐ。
・マンネリを防ぐ。
その他いろいろな理由があります。
基本的には会社が事業を行っていく上でメリットになることですが、もちろん変えることによるデメリットもあります。
・仕事の引き継ぎに関するコスト
・慣れが失われることでの仕事の効率低下(一時的かもしれませんが)
などが大きなことでしょう。
ただ、ある会社で遭遇した組織改編によるデメリットが、私の予想を超えて極端だったために、強く印象に残っています。
それは組織改編や異動があるせいで、管理職を中心に「とにかく行動しない」「自分では決めない」「なるべく先延ばし」という人が圧倒的多数だった会社です。
大きな組織変更や人事異動というのは、一般的には数年サイクルのローテーションなど、中期視点も持って行うことが多いと思いますが、この会社はとにかく組織改編と人事異動が頻繁でした。
管理職は毎年肩書が変わり、配下の部下も仕事内容も変わっていきます。頻繁な組織改変の理由ははっきりとは聞けませんでしたが、どうも会社上層部の考え方として、誰がどんな専門性で何をやっているという人に関する視点よりも、まずは組織の形ありきで考える机上論が優先される傾向にあったためのようでした。
そこでどういうことが起こっていたかというと、数年先の話、中期的な話、年度またぎの話など、とにかく先の話、将来の話ができないのです。
私が関わるのは人事という世界なので、どちらかというと先のことを考えながら進めなければならない場面が多いですが、そんな話題になると「この件に関しては進められるけど、その先は自分が担当するかわからないから保証はできない」「自分が判断できる範疇ではないから、その時になったらまた考えてほしい」などといわれます。
これが会社全体で、上司部下の関係、取引先との関係など、すべての場面ではびこっていて、「先のことはわからないからできない」と言います。
社員は自分のキャリアを見通せない不安があるでしょうし、責任を持ってくれない上司と、本音で付き合おうとはしないでしょう。
取引先や出入り業者にとっても、先の見通しがつけられない訳で、かなり付き合いにくい会社であることは間違いありません。
これに対して会社の上層部は、こんな現場の事情をあまり理解していないのか、このような組織改編のやり方を「事業戦略に合わせた機動的な手法」と捉えているようです。
「機動的な組織改編」といえば聞こえは良いですが、このやり方は、ともすると「一貫性のない組織改編」となりかねません。これはあくまで極端な例かもしれませんが、変化や機動性を強調する半面で、一貫性と中長期の視点を欠いてしまっている気がしてなりません。
私がいつも思うことですが、変化に対応していくことが大前提としてある上で、守るべきものと変えなければならないものの両方が存在し、場面に応じて適切なバランスを考えて行くことが大切になります。
場面によって適切なバランスは変わるでしょうが、どちらか片方だけで良い場面というのは、ほとんどないはずです。
変化と一貫性のバランスが大事であることを、強く感じた一件でした。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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