小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「適切な現場介入」を線引きする難しさ
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少し前の話ですが、某プロ野球球団のコーチが退団するにあたり、その理由が球団オーナーの度重なる現場介入だったというものがありました。
真実かどうかはわかりませんが、選手起用やオーダーにまで口出しをしていたということです。
この手の話は、海外のプロサッカークラブなどで良く聞きますが、日本で表立って耳にすることはなかったので、真偽のほどはともかく、こういう話が出てくること自体が少し驚きでした。
もしこれが本当ならば、日本の経営者、ひいては日本人全体の意識が変わりつつある端緒のような気がします。
たぶん今までの日本では、「現場を尊重すること」「他人の専門領域を侵さないこと」「権力者が細かい口出しをしないこと」などが、人間の美徳という面も含めて意識されていたため、こういったことが露骨に行われることは少なかったのでしょう。「権力は抑制的に使う」から「使える権力は積極的に使う」に変わってきていると思います。
この「現場介入」についてはメリット、デメリットの両面があります。
余計な現場介入をしないことで、「優秀な現場が育つ」「現場の責任感を強める」「専門家のプライドが保てる」などという良さがある反面、何でも現場任せばかりでは、「何かが起こった時の責任の所在があいまい」「全体最適の動きができない」「判断や決断が遅くなる」という問題も起こります。
要は「“適切な現場介入”が望ましい」となる訳ですが、何が適切で、何がそうでないかという線引きは、実はとても難しいことです。
これは私自身がコンサルティングやマネジメントの場面で、現場との向き合い方として心掛けていたのは、「情報収集は組織にこだわらず幅広く、指示命令はあくまでもライン組織で行う」ということと、指示命令においては「一方的な命令は緊急時に限り、その他の場合はできるだけ現場で方法を考えさせる」ということです。
ここからすれば、球団オーナーの現場介入は、専門外のことをそこまで情報収集できないでしょうし、現場の考えを一存でひっくり返しているので、あまり好ましくはないでしょう。
ただ、現場の責任者である監督を通しての指示命令でしょうし、チーム状態が良くないとすれば、緊急性はあったのかもしれません。
このように、「適切な現場介入」の明確な線引きは、やはり難しいです。
とはいうものの、トップが現場介入するような動き、特に細かな戦術に当たる部分にまで口出しをするような行動は、私はできる限り抑制的であるべきだと思っています。そういう組織が徐々に衰退していくのを、いろいろなところで何度も見ているからです。
この件について、実際のところは部外者ではわかりませんが、球団の組織全体にとって、悪影響にならなければ良いと思います。トップや上層部からの現場介入は、方法もタイミングも十分に慎重であるべきです。
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