寒くなりだすと、急に断熱材に関する問い合わせが増えて来ます。断熱材で検索すると色々な断熱材メーカーが好き勝手に自社の長所をアピールしている為に、調べれば調べるほど判らなくなります。
私の場合、材料を限定することはしていません。限定しているのは次世代省エネ基準をクリアさせると云う事のみです。断熱材へのこだわりは、断熱性能以外にコストや環境問題も複雑に絡み合っていますので、クライアントにお勧め出来る断熱材もその都度変ります。
次世代省エネ基準をクリアする方法としまして、材料を限定して次世代省エネ基準をクリアしている例を多く見かけます(仕様基準)が、これは基本的には過剰仕様になったり、建物の部分によっては次世代省エネ基準の水準に達していない部分があると考えています。
次世代省エネ基準をクリアする別の方法として、性能で規定する方法(性能基準)があります。簡単に言えば建物の部分毎に熱貫流率を計算しまして、その逆数(熱損失)の総和を床面積で除した数値(Q値)を目標数値(関西で言えば2.7)以下にすることを目指すものです。
最近は住宅メーカーでも性能基準で算出した数値を売り物にしている会社があります。Q値○○の家みたいな宣伝を良く目にしますが、私はこれにも疑問を感じています。なぜならばQ値は建物の形状や、開口部の面積の割合で大きく変化する数値なのです。Q値は断熱材の良し悪しだけで決まる値ではありません。
たとえばQ値1.0にしようと思えば、窓の大きさを出来るだけ小さくすれば、簡単にQ値1.0は実現出来ます。しかし小窓しかない家が快適なはずがありません。
ですので、Q値○○の家の実際は、「Q値○○の実験データを得られた家と同じ断熱材を使っていますが、あなたの家についてはQ値○○となるとは限りません。」と云う云い方をしないと誇大宣伝になると考えています。
一般の方はそこまで考えず、「Q値○○が実現できる断熱材を使用した家」としか思っていないのです。
これは折角、性能基準を志向しながら仕様基準と変らない断熱材の選定をしている事に他なりません。
どの様な間取り・形状・地域であってもこれがベストと云う断熱材はありません。あればその断熱材が他の断熱材を駆逐しています。ですので、間取り・外壁面の大きさ・開口部の大きさ・地域性その他諸条件を加味しながら、最もコストパフォーマンスの高い断熱材を選定するのが正しい選定方法と考えます。
このコラムの執筆専門家
- 福味 健治
- (大阪府 / 建築家)
- 岡田一級建築士事務所
木造住宅が得意な建築家。
建築基準法だけでは、家の健全性は担保されません。木造住宅は伝統的に勘や経験で建てらていますが、昨今の地震被害は構造計算を無視している事が大きく影響しています。弊社は木造住宅も構造計算を行って設計しています。免震住宅も手掛けています。
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