断熱性能は計算によって求める方が、費用対効果の高い結果が得られます。熱損失係数(Q値)の算定によって、数値で温熱環境を管理出来るためです。但し最近のQ値は数字のみが一人歩きしている感じがしています。何故ならばQ値は夏と冬の断熱効果の違いを考慮していません。
冬、暖かい室内の空気は外の冷たい空気によって除々に冷やされます。暖房器具を使用しなければ外気温を変わりなくなってしまいます。これは温度が高い処から低い処へ熱が移動した事を示していますが、家のそれぞれの部位から、部材の熱の通し易さと、面積の大きさに従って、均等に逃げて行きます。屋根と壁と基礎を同じ断熱材を使用したとすれば、概ね10%・27%・7%位の割合で逃げます。ちなみに窓からは30%。換気で15%熱が逃げて行きます。屋根・壁・基礎は概ね面積の大きさに比例しています。全て合わせて54%が断熱材の性能に左右される割合です。この54%を40%程度まで抑えようと思えば、断熱材の値段は倍位に跳ね上がります。それよりも窓を無駄に大きく取っていないか、換気に熱交換器を取り付けてはどうか等総合的に検討した方が、エコノミーなエコ住宅となります。
Q値はこの事を突き詰めた値です。Q値が下がれば下がるほど断熱性能の良い家となります。但し快適な家になるとは限りません。何故ならばQ値は夏場の熱損失を正確に表していない為です。
Q値の算出には、熱の移動は(全ての箇所が)均等に移動すると言う大前提があるためです。
夏場は均等に移動してくれるのでしょうか?夏場の太陽からの日射量は屋根面は全外壁面の3倍の日射量を浴びます。屋根・壁・基礎はそれぞれ24%・20%・4%と云う風に割合が変ります。面積比で3倍程度ある外壁面よりも屋根面の方が大きな熱量を受けてしまうのです。冬場と同じ環境を維持しようと思えば、外壁面の三倍の断熱性能を持つ断熱材を入れる必要があることになります。(関西地方に於いての話しです)
この事を専門家は、感覚的に知っていますので、壁に100mmの断熱材をいれると屋根又は天井には200mmの断熱材を入れている家が多くあるのです。しかし計算から導き出された結果は2倍でも足りない事を意味しています。(関東以北ではこれでも良いかと思いますが)断熱の発想は寒い国で発達し、研究されて来ましたので中々夏場の暑さに苦しむ地方の人は恩恵を蒙る事が出来ません。
冬に暖房で快適に過ごそうと思えば20度前後暖める必要がありますが、夏快適に過ごそうと思えば数度下げるだけ済みます。但し、温度を20度前後上げる費用と、数度下げる費用は同じ位掛かることを考えれば夏の冷房効果を考える意味もご理解出来るかと思います。
このコラムの執筆専門家
- 福味 健治
- (大阪府 / 建築家)
- 岡田一級建築士事務所
木造住宅が得意な建築家。
建築基準法だけでは、家の健全性は担保されません。木造住宅は伝統的に勘や経験で建てらていますが、昨今の地震被害は構造計算を無視している事が大きく影響しています。弊社は木造住宅も構造計算を行って設計しています。免震住宅も手掛けています。
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