ビジネスの現場では時間に限りがありますし、経営者や管理職の方々は皆さん忙しいですから、何事にも早い答えを求めがちになります。部下や後輩が質問をしに来たら、たぶん答えを教えてすぐに疑問を解決させようとするでしょうし、「自分でやった方が早い・・・」なんて思いながらも、部下後輩にやり方を教えてやらせるということもあるでしょう。
こんな「質問に答える」「やり方を教える」という、ごく一般的に行われている普通のことでも、実は「相手に強制している」ことと同じになってしまうという部分があります。ストレートに答えを与えることによって、「自分で考えて判断する」というプロセスが省略されてしまうからです。“自分で決めた上での行動”にならないのです。
指示する側の立場である上司、先輩にとって、答えがわかりきったことだったりすると、「お前、それはな・・・」とついつい教えたくなりますが、私の場合はそこをぐっと我慢して、できるだけ相手に質問することを心掛けています。「君だったらどうする?」「なぜそう思う?」「どんな効果がありそう?」「こんな時はどう対処する?」など、とにかく本人に考えさせるようなやり取りをします。良いと思う考えは「そうだね!」「それいいじゃん!」と肯定し、良くないと思ったら一方的に否定せず、違う角度から質問を続けます。ある程度の答えに誘導している部分ももちろんあります。
少々手間はかかりますが、こういうプロセスを取ることで見つけた答えは、部下後輩にとっては「自分で考えて上司にも認められた行動」になり、小さな成功体験になります。またこういうプロセスを繰り返すことで、人に聞く前に自分で考えてみることが習慣づいてきます。
人を育成する上では「教える」ということが絶対に必要ですが、それが単に「答えを与える」ということになっていたとすると、逆に部下後輩の成長や自発的な行動を阻害している可能性があります。自分のやり方や考え方を、相手に強制していることと同じになってしまうからです。これは時間がないために考えさせるプロセスが省略されている場合だけでなく、ものすごく面倒見の良い上司先輩が、事細かに手取り足取りの部下指導をしているような場合にも起こり得ます。
「相手が答えを見つけるのを待つ」というのは、ものすごく根気と忍耐が必要な事です。実際の現場で100%行うことは難しいかもしれません。ただ、こういう部分を少しでも意識しているのといないのとでは、部下後輩への接し方は大きく違ってきます。
まずはできる範囲から、「自力で答えを見つける」ように“仕向けて”みて頂ければと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
組織が持っているムードは、社風、一体感など感覚的に表現されますが、その全ては人の気持ちに関わる事で、業績を左右する経営課題といえます。この視点から貴社の制度、採用、育成など人事の課題解決を専門的に支援し、強い組織作りと業績向上に貢献します。
「社員にやる気を出させるヒントになるエピソード集」のコラム
「管理職になりたくない」の気持ちを変えられるか(2024/03/20 21:03)
有名店の店主がいう「得する客」の話(2024/01/17 23:01)
「厳選採用」とは反対のやり方(2023/12/13 18:12)
身近には意外に少ない「ダメ出ししてくれる人」(2023/11/30 11:11)
「アットホームな会社」とは何なのか(2023/11/15 18:11)
このコラムに関連するサービス
当事者では気づきづらい組織風土の問題をアドバイス。同テーマ商品の対面相談版です。
- 料金
- 6,000円
「今一つ元気がない」「何となく一体感がない」など、職場の風土や雰囲気に関する悩みについては、当事者しかわからない事情とともに、当事者であるために気づきづらい事もあります。これまでのコンサルティングで、活気を維持する、活気を失う、活気を取り戻す、という様々な事例、プロセスを見た経験から、会社状況に合わせた原因分析、対策をアドバイスします。(同テーマのメール相談を、より詳細に行うための対面相談です)
このコラムに類似したコラム
【受講者感想vol.642】 自分の部下を実例に具体的な指導・育成方法、叱り方など指導頂き、大変勉強になった タカミ タカシ - キャリアカウンセラー(2023/11/04 22:00)
【受講者感想vol.635】 一方的な講義ではないため、自分の身に沁みて理解でき、改善が強く実感できる タカミ タカシ - キャリアカウンセラー(2023/09/09 22:00)
「昇進しやすい人」がリーダー向きとは限らない 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2023/06/28 15:12)
若手社員が「アドバイスは喜び強制を嫌う」という話 小笠原 隆夫 - 経営コンサルタント(2022/12/15 09:50)
属人化するようなものでは困りますといわれて 困りました 竹内 和美 - 研修講師(2022/05/27 16:17)