今のように雇用環境が厳しい中で、会社都合で仕事を追われる人達がいる一方、自己都合で辞めていく人も少なくありません。新入社員は3年以内に3分の1が辞めてしまうという統計もあります。
最近は、ちょっと常識では理解できないような理由で辞める人の話がいっぱい出てくるし、私も「なんだ、それ?!・・・」という実体験をしたこともありますが、大半の人は真面目に仕事に取り組み、その中で悩んだり考えたりした結果として、いたって普通の形で辞めてしまっていると思います。
「社員の定着率向上」を重要テーマとしている会社は、今でもとても多いです。退職者にヒアリングするなどして退職理由を分析し、それに基づいたいろいろな対策をしますが、私が聞く中では、効果があがったという話は少ないです。
その理由は単純で、退職者に直接聞いたって、本当の退職理由なんてわからないからです。これは「言わない」という部分もあるでしょうし、実際にはいくつもの要素が重なるので、「これが理由です」などと単純に説明できないことも多いからです。
最近の考え方として「辞める理由ができた」ではなく「残る理由が無くなった」と捉えた上で対策を考える必要があるとされます。辞める理由を無くすのではなく、残る理由を増やさなければ定着しないということです。
“辞める理由”が明確な場合というのは、例えば、家庭の事情、生活上の問題(給与水準など)、行きたい会社に内定したなど、会社の努力ではどうしようもない事が多いのですが、“残る理由”というのは、例えば、続けたい仕事がある、断ち切りたくない人脈がある(辞めると切れてしまう)、それなりに認められている、辞めると迷惑がかかるなど、本人と会社の関係性に関わることで、会社の努力次第で改善できるものです。(もちろん、まだ経験が浅い、とりあえず○年、あと○年で定年、他に行先がないなど、あまり前向きでない残る理由もありますが・・・)
こうやって見ると、“残る理由”というのは、採用時の相互理解(入口はかなり大事です)、個々のキャリアプラン、上司のマネジメント、毎日のコミュニケーション、公私を含めた人間関係など、人に関わるすべての事柄がつながることがわかります。
退職理由を明らかにして、それに向けた対症療法で解決しようとしても、見えている現象とは違うところに問題があったりしますし、そもそも退職理由というのは、一言で表現できるほど単純ではありません。対症療法では“残る理由”を増やすことにつながらず、それでは改善は難しいです。
結局は入社前まで含めた相互理解と信頼関係の積み重ね、本当に細かい工夫、配慮、コミュニケーションの積み重ね、オフィシャルからプライベートまでを含めた関係作りの積み重ねです。
私も退職者対策と称して、会社側のお手伝いすることがありますが、そこでやることは「良い関係性が築けるように、社員の心理に働きかけるにはどうするか」、そのための発想、企画、行動にかかわることです。採用活動の改善や研修といった堅いものから、遊びやレクレーション企画のような事柄まであります。
もしも社員の定着に課題があるのなら、退職者対策などと言って身構えず、もっと純粋に「どうしたら社員と会社が仲良くなれるか」「どうしたらより深く知りあえるか」と考えれば、意外に効果的な対策が出て来るように思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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