産業医として企業の社員の健康問題に取り組んでいると、最近の傾向として、メンタルヘルス関係の相談事が明らかに増えていると実感しています。企業によっても違いますが、概ね8割くらいはメンタルヘルスに関する相談が占めています。具体的には、うつ病や適応障害、パニック障害に関する相談が目立ち、またメタボリック症候群や自律神経失調症など身体的な問題であっても、ベースにメンタル面でのトラブルが隠れていることが多いのです。
私のような内科出身の産業医でさえメンタル面に関する相談に明け暮れるくらいですから、精神科を専門とする産業医の需要が企業現場ではたいへん増えています。ところが精神科の産業医はごく少なく、全産業医の1%にも満たないと言われています。従って内科や外科など出身の産業医が、慣れない企業のメンタルヘルス問題に悪戦苦闘しているのが現状です。また産業カウンセラーの必要性が改めて叫ばれており、腕の良いカウンセラーは研修や講演も含め、企業から引っ張りだこになっています。
職場に於けるメンタルヘルス問題の深刻化は、はっきりと統計にも表れています。企業に於けるメンタルヘルスの実態調査では、2007年にメンタルヘルス不調で1か月以上休職している社員がいる企業は62.7%にのぼり、3年前の調査より10ポイント以上も上昇しています。さらにメンタルヘルス不調者が最近3年間で増加していると答えた企業は55.2%と半数以上に上っており、企業に於ける心の健康問題はより深刻化してきています。
この問題の深刻さは「自殺」の増加にも顕著に現れています。我が国に於ける自殺者数が平成10年以来、10年連続で3万人を突破しています。これは交通事故による死者数の約6倍に相当する数字です。世界的にも日本の自殺率は高率で、主要国ではロシアに次いで何と第2位です。率を比較するとアメリカの約2倍、イギリスの約3倍にもなり、まさに「自殺大国」といえるほど深刻な社会問題となっています。年齢層でみると、50~60代の男性が特に目立ちます。
企業側の損失も拡大しています。うつ病などメンタルヘルス不調者による休職者が出ると、休職期間中の給与や傷病手当金の支払いはもちろんのこと、場合によっては労災申請や民事訴訟などに発展するため、それによる経済的損失は計り知れません。また職場の雰囲気の悪化やモチベーションの低下をもたらし、他の社員への連鎖的なメンタル不調や休職、離職などの波及につながる可能性があり、対外的な企業イメージの低下さえも招きます。
逆の見方をすると、企業として適切なメンタルヘルス対策を行なうことによって、うつ病などの心の病の発症を減らすことが充分に可能です。そのような好ましい変化が現れた職場では、社員の体も心も健全となり、安心して日々の仕事に専念することが出来るようになり、パフォーマンスは向上します。心の病が減少すれば休業補償や労災などによる企業の経済的損失も減らすことができますし、職場のモラルや企業イメージを向上させ、業績を上げることさえ可能なのです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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病気を治したり予防するにあたり、いちばん大切なのは、ご本人の自然治癒力です。メンタルヘルスを軸に、食生活の改善、体温の維持・細胞活性化などのアプローチを複合的に組み合わせて自然治癒力を向上させ、心と身体の両方の健康状態を回復へと導きます。
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