(続き)・・仕事がたて込んでいる繁忙期ならば止むを得ないところですが、そうでもなければ可能な限り「残業」というものは最低限にしたいところです。特に仕事のできる若手の社員にとっては、さっさと仕事を切り上げて夕方以降のプライベートも充実させたい、というのが人情でしょう。ところが午後の5時から6時にかけて部下が帰宅しようとすると、「俺がまだ働いているのに、もう帰るのか」と不満そうな上司が少なくありません。このようにして暗に残業を強要された部下は、どのように感じるでしょうか。
部下にしてみれば、効率よく仕事をこなして早めに帰るだけのことで、別に仕事を放置している訳ではありません。節約できた時間を活用して、趣味や習い事、スポーツや社交、息抜きなどの活動に充てたいと考えていたのに、上司から「もう帰るのか」などと引き止められると、部下は「会社に拘束されている」といった閉塞感を感じます。そして「せっかく能率よく仕事をしたのに・・仕事の内容よりも会社に居る時間の方が大事なのか・・」と、モチベーションが一気に低下してしまいます。
上司の世代は新入社員の頃、「残業は美徳」といった風潮の中で育ちました。当時の上司が当たり前のように残業や休日出勤をし、有給休暇さえ消化せずに働き詰めだったため、その当時を振り返り「昔は毎日のように終電まで働いたものだ」などと、武勇伝を部下に聞かせたりします。ところが現代の若い世代は仕事とプライベートを峻別するセンスをもち、職場に一方的に拘束されることを好みません。従って、仕事の内容よりも職場に長時間留まることを重視する風潮に対しては、反発を覚えるのです。
もしも上司が社員に必要以上に残業を強いるような傾向が全社的にはびこると、社員の間では仕事量の多寡に関係なく、例えば午後8時頃までは皆が何となく職場に残り、三々五々帰宅していくもの、などという暗黙の了解が生まれます。その結果、仕事の能率よりも「勤務時間の長さ」で社員を評価するといった風潮となり、業務の能率が低下するだけでなく、残業代がかさんだり、優秀な若手社員が次々と他社へ転職していく、という衰退の道を歩むことになりかねません。
そのような事態を避け、生産性と活力の高い職場にするためには、社員が要領良く仕事をこなしている限りに於いては、早めに帰宅するのを上司は認めてあげることが大切です。それだけでなく業績の良い社員に対しては、状況によっては「定時前の退社」も認めるようにすると、社員の仕事の能率はさらに向上し、モチベーションも上がるに違いありません。全社的に、仕事をテキパキとこなしてプライベートも充実させることを尊ぶ社風になれば、結果的に業績も向上することが期待されます。
但し部下が残業を減らして早く帰宅できるようになるためには、上司自身が必要のない残業を控えることも同じように大切です。いくら現代の若者であっても、毎日のように上司が終電近くまで会社に残っていたのでは、さすがに早く帰りにくいものです。毎日は無理でも、週のうち1日か2日くらいは上司も率先して早く帰宅することで、部下も安心してプライベートの活動を楽しむことができるだけでなく、上司自身の家庭生活の充実やストレス発散などにも役立つはずです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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