「活躍したくない」というシニアや女性たちの気持ち
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ある大企業勤務の50代男性数人と話をする機会がありました。私に対して「自由に仕事ができてうらやましい」と言いますが、「でも自分たちには無理」と言います。
確かに今の年令で会社の枠を飛び出して、それなりに収入を得ようというのはハードルが高いです。
そして、「シニア活躍などと言われて尻を叩かれても、正直もう活躍したくない」などと口をそろえて言います。若手社員が聞いたら「働かないオジサン」「お荷物社員」「老害」などと糾弾されてしまいそうです。
ある調査によれば、65歳以降の就労意欲について聞いたところ、「仕事をしたい」が33%、「仕事はしたくない」が46%、「わからない」が21%とのことでした。就労意欲があるシニア世代は3人に1人いる一方、それ以上の全体の半数近くは「仕事をしたくない」といっており、この割合は以前の調査結果よりも増えているそうです。
生活の問題で働かざるを得ないが、本音ではもう仕事を辞めてゆったり過ごしたいと考えている人が多いようです。
ただ、この気持ちを「やる気がない」などと責められるかというと、私はそうは思えません。
「もう活躍したくない」と思ってしまう理由は、今まで真剣に仕事をしてきてこれ以上は限界なのか、不本意なことでも仕事だからと無理して従ってきたのか、それを「定年までは」と線を引くことでやってきたのかもしれません。今はそれが先延ばしされていく環境になり、もうついていけないといっているように見えます。
会社は「今まで面倒を見てきた」と思っているかもしれませんが、働き手は「いろいろ我慢して合わせてきた」という気持ちがあるでしょう。
これは「女性活躍」でも同じような話があり、女性を対象としたある調査で「専業主婦願望」について聞いたところ、「本当は専業主婦になりたい」という回答が約4割に上ったそうです。
また、現在専業主婦の人の5割が今の生活に満足しているものの、8割が老後を不安視していて4割が働きたいと考えているという結果でした。こちらも生活のためにやむなく働くというイメージが強い感じです。
共働きでは家事も育児も女性の負担が多く、決して男女平等ではないという声も聞きます。
このどちらも共通していると感じるのは、やはり「仕事は負担を伴う大変なもの」という認識です。
シニアでいえば、仕事上の強制や束縛など長期に渡っての積み重ねがあり、そこから解放されたい思いです。
女性であれば、家庭内での分担の偏りや、社会的なサポート不足による行き詰まりなど、続けたくても続けられないといったジレンマです。
それを無視してみんな一律に「活躍」などと言われてしまうと、肯定しきれない気持ちが出てくるのはよくわかります。
シニアや女性を取り巻く仕事環境は、たぶん少しずつ改善されていくのでしょうが、その人たちの置かれた環境によってバラツキはあるでしょうし、個々の職業観や人生観によっても感じ方は違うでしょう。
この「活躍したくない」の言葉の裏には、ただ単に楽をしたいというだけではない、多くの問題が複雑にからんでいます。
シニアや女性たちが「活躍したくない」と言いたくなる気持ちを、私は責めることができません。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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