いくつかの会社での雑談の中で、まったく正反対の相談を受けました。それぞれある上司が、自分の部下の指導方法に悩んでいる話です。
一つは、とても積極的で何でも自分から手を上げる部下だそうですが、自己評価が甘いのか、どう考えてもこなせるレベルにないことを、「任せてほしい」「それならできる」と言ってくるそうです。上司から見れば「自信過剰」とのことです。
もう一つは、何事にも慎重なのか謙虚なのか、仕事を任せようとすると「自分には荷が重い」「自信がない」など、初めからできないという発言が多い部下だそうです。上司にとっては真面目で信頼できる人材だということですが、いかにも「自信過小」で困るということです。
前者の「自信過剰」の場合、任せられないことを納得させようとすると、どうしても「まだ早い」「能力が足りない」など、ダメ出しと取られても仕方がない言葉を言うしかありません。当然本人のモチベーションは下がりやすく、その伝え方には工夫が必要で手間もかかります。勝手な自己判断で暴走することがあり得ますから、行動は常に見ておかなくてはなりません。
これに対して後者の「自信過小」の場合は、能力を肯定する、褒める、勇気づける、サポートの約束など、前向きな話が中心になります。上司は話しやすく違和感もないでしょう。勝手に行動する心配がないということでは、いつも見張っている必要はありません。
ただ、「自信過剰」の人には、自ら積極的に行動するという良さがあるので、善し悪しを客観的に説明していけば、過剰な自信を適正にすることはできます。そうなれば暴走の心配はなくなり、積極的に自分で判断できることが強みになってきます。
一方「自信過小」の人は、行動力や判断力が足りているとは言えず、「言わなければ動かない」、さらには「言っても動かない」というようなところがあります。行動したくない人を行動させるように仕向けるのは、意外に労力がかかるものです。
あえてどちらかが好ましいかを何人かのマネージャーに聞いてみたところ、若干「自信過小」の方が多い印象でした。自分の管理下に置いたときには、その方がコントロールしやすいということがあるのでしょう。結局どちらも一長一短で、両方とも扱いは難しく、同じ様に日々の指導を続けていくしかありません。
「自信過剰」や「自信過小」であるよりは、やはり中庸でバランスが取れていることが好ましいですが、適切なバランスの捉え方というのは人によって違います。「自信過剰」「自信過小」と言われている人たちも、たぶん自分が偏っているとは思っていないでしょう。
さらに、マネージャーたちとこの話をしている中で気づいたことがあります。それは、マネージャー本人が、どちらかと言えば自分と似たタイプの人を扱いやすいと答えていることです。そうであれば、適切なバランスの捉え方は、上司と部下それぞれの性格的な距離感に左右されることになります。性格的な組み合わせによってバランスは変わってくるでしょう。
こうやって見ていくと、「適切なバランス」というのは、何が対象であっても難しいものだと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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