「みんなそう思っている」というリーダーの思い込み
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ある会社の社内ミーティングに、オブザーバーとして同席していた時のことです。
仕事の進捗状況の確認をしている際に、リーダーがあるメンバーのことを、かなり厳しい口調で叱責し始めました。私が見ている限りでは、別に仕事上の進捗遅れや不手際があった訳でもなく、ごく一般的な話の流れの中からだったので、何がきっかけだったのかがよくわかりません。見方によっては、俗にいう、“キレた”に近い様子です。
そして最後に一言、「みんながそう思っているのを、俺が代わりに言ってやっているんだ!」と言います。
私も専門家として同席している立場上、その場では、原因はともかく、この場でその言い方は問題だ」ということをリーダーに伝え、後であらためて話を聞いてみました。
リーダーによると、叱責を受けたそのメンバーは、仕事はそれなりにできるものの、先輩や同僚からすると、ちょっと生意気に見える態度や行動を取ることが、よくあるのだそうです。
リーダー自身はそれほど気になっていませんでしたが、配下のサブリーダーから、「そのメンバーの態度や行動は問題である」「周りのメンバーはみんな自分と同じように、苦々しく思っている」という話をされ、リーダーとして指導してほしいと言われたそうです。
そう言われて気をつけて観察していると、確かにそんな様子に見えなくもありません。サブリーダーは相変わらず「アイツは問題だ!」と繰り返し言ってきますし、そういう話を何度も聞いていると、「みんなそう思っている」と言われたこともあって、自分の中でも徐々に問題意識が強くなっていったそうです。
そんな流れがあった中で、冒頭のミーティングでの「みんなの代わりに言っている」という発言になったようでした。
この話を他のメンバーたちに、あえてストレートに聞いてみました。
するとみんな、「あれはそういうことだったのですね」と言いながら、
「確かにそういうところはあるけど、別にそれほど気にならない」
「仕事はちゃんとしていますしね」
「いいんじゃないですか、生意気なところがあるくらいで」
など、“みんながそう思っていた”とはちょっと違う状況です。
さらに、
「サブリーダーの○○さんは怒ってましたけどね」
「リーダーからも尋ねられたので、“そんなところはありますね”とは言いましたが、それほど問題とは思っていませんでした」
とも言っていました。
どうもサブリーダーが個人的に抱いていた不満が、「みんなそう思っている」との言葉で増幅されて、リーダーもそう思い込んでしまい、結果的にはピント外れの強い叱責になってしまったということのようでした。
単なるコミュニケーション不足と言ってしまえばそれまでですが、特に人間関係にかかわるような話で、この「みんながそう思っている」というような、いかにも世論を背景にしているかのような言い方には、実は特に注意が必要です。自分の正当性を高めるためにそう言うだけで、実際にはみんなそう思っていないことが多々あるからです。
今回の件でも、リーダーは自分なりに情報収集したようですが、“信頼しているナンバー2クラス”のサブリーダーからの話を、わりと鵜呑みにしていたことが問題でした。
こんな人のうわさ話のようなことは、仕事上のオフィシャルな場面でも起こります。リーダーの立場として、このような思い込みに陥らないコミュニケーションを、日ごろから十分に意識しておく必要があります。
自分自身がみんなと直接話していれば、「みんなそう思っている」の間違いは防ぐことができるはずです。
このコラムの執筆専門家

- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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