「敗者復活」がなかなか難しい社会環境や企業の現状
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あるテレビ番組を見ていて、“敗者復活”という言葉が耳に残りました。
今の社会は勝つか負けるかのギスギスした社会になっており、さらに一度負けるとなかなか“敗者復活”ができないので、それが心の病や人を傷つける犯罪や、他人のことを顧みない風潮の一因になっているのではないかということでした。何となく納得をしながら聞いていました。
ここで言っていた“社会”を“企業”に置き換えてみると、例えば私がかかわることが多い人事制度であれば、「評価」というものが必ずついて回ります。この評価の仕組みとしては、評価項目や評価基準を設けたり職務基準を作ったりして、ある程度の客観性に基づいて、ゼロベースで評価できる形を整えようとします。
ただ、これを運用していっても、人それぞれの評価というのは、実際にはあまり変わらずに固定化していく傾向が強いです。
「仕事ができる人とできない人は、そんなに入れ替わらない」「仕事の能力は急に変わるものではない」というのはある面では真実だと思いますが、その一方、一度貼られたレッテルはなかなか剥がせないということも感じます。
特に中小零細企業の場合は、個別の人との相性などもからんで、その人の評価や組織内での序列といったものは、いつまで経ってもなかなか変わりません。これは少人数の固定化した集団では、ある程度やむを得ないのかもしれません。
また、例えば役職任命であれば、昇格も降格も、栄転も左遷もあるでしょうが、どちらかといえばよほどの失敗や責任問題、能力不足といったものでもない限り、外す、降ろすという処遇はしないことが多いです。これは生活が成り立たなくなっては良くない、やる気をなくしては困るといった理由とともに、一度役職から外したり降格したりすると、再び元に戻すのが難しいということでもあり、要は「敗者復活がしづらい」ということがあるのでしょう。
これはある会社で聞いた話ですが、もともとはシステム開発部門の部長だった人が、あるプロジェクトを大失敗させて部長から降格になりましたが、その後管理系の部門に異動し、そこで徐々に実績を認められて部長職に返り咲き、そこからさらに評価を高めて執行役員を務めるまでになったそうです。
まさに“敗者復活”といえるように思いますが、こうなるには本人の努力だけでなく、周りもその人を見捨てずに、環境や役割を変えるなどしてチャンスを与え続けたからということがあります。
“敗者復活”は、本人の努力だけではなかなか難しいところがあります。それが可能な環境作りや、周りから何らかの後押しが必要です。
人が人を評価する限り、初めの印象が強く作用することは避けられませんが、これが固定化することで、本当は育つかもしれない可能性の芽を摘んでいるかもしれません。それは社会においても企業においても、あまり好ましいことではありません。
「“敗者復活”ができる環境作り」というのは、簡単にできそうにはありませんが、取り組んでいかなければならないテーマだと思います。
このコラムの執筆専門家

- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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