先頭に立って突き進むリーダーに、本当について行きたいか?
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リーダーという立場になれば、いろいろな形でメンバーから批判を浴びることがあります。
ある会社でおこなった一般社員とサブリーダークラスに対するヒアリングの中で、一人のチームリーダーに対して、「いつも方針が曖昧だ」「目標が不明確」「実行力が足りない」といった内容の批判がされました。
批判されたリーダーは私も知る人ですが、どちらかといえば控え目でおとなしく、優しそうな感じの人です。一般的なイメージで言う“リーダー的な人”ではなく、確かに少し頼りなさそうには見えます。
本人に意識を持ってもらうため、あえてこのメンバーたちからの批判をリーダーに話してみると、しばらく考え込んだ後、「確かによく言われることなのですが・・・」と言いながら話を続けます。
その話を聴くと、このリーダーがチーム運営で一番大事だと考えているのは、メンバーたちが仕事をやりやすくすることで、そのために自分はできるだけメンバーたちの意見を聴き、それを取り入れて行くことが良いと思っているとのことです。
かつての自分の上司の中に、ほとんど意見を聴いてくれずに一方的な指示をするばかりの人と仕事をした経験があり、その時はとてもやりづらかったため、自分の部下にはそういう思いをさせたくないのだそうです。
そのため、メンバーたちに意見を求めたり、合議制で決めようとしたりすることが多い様子ですが、そういう部分を「リーダーとして物足りない」「もっと引っ張ってほしい」と批判されたようです。リーダー自身も、「そういうやり方だけではリーダーとして物足りないですね」などと反省の弁を述べます。
ただ、見方を変えれば、こういうやり方も、リーダーとしての方針であることは間違いありません。私にしてくれたようなチーム運営に対する考え方は、まだメンバーたちに話したことはないそうです。
そのしばらく後、私がこのチームのメンバーたちと話をする機会があり、こんなことを聞いてみました。
私:「明確な方針があって、的確な指示のもとに実行するリーダーが望ましいですか?」
メンバー:「それは当然そうです」
私:「では、その提示された方針に納得ができなくても?」
メンバー:「いや・・・、それは困ります」
結局、「リーダーはこうあるべき」というイメージのもと、自分たちのリーダーに不足しているところばかりに注目して、それを批判していたということです。
もしも彼らが言う通りの「方針を立てて突き進む実行力に満ちたリーダー」に率いられたとして、納得できる方針のもとに指示が出されて仕事ができればそれは良いことでしょうが、仕事はそんなにうまくいくことばかりではありません。
最も望ましいのは、納得された方針や目標のもとに、適度な指示と権限委譲による、機能的で一体感があるチーム運営ということになるのでしょうが、そこまで完璧なリーダーはめったにいませんし、特に自分の信念を持ったリーダー、自分で方針を示すリーダーは、他からの意見をあまり受け入れない傾向があります。
このリーダー批判をしたメンバーたちは、その後リーダーからチーム運営に関する考え方を聞いて納得し、チーム運営を今まで以上にフォローしてくれるようになったそうです。
経営者や管理職などのリーダーに対する批判には、教科書的なリーダー像との差異に関する部分が多く見受けられ、「先頭に立つ」「率先垂範」「統率力」などが言われます。
確かにリーダー像の一つではありますが、リーダーシップの取り方にはいろいろなスタイルがあります。先頭に立って強く引っ張るリーダーを息苦しいと感じる人もいるでしょう。
もしもリーダーシップが弱いとの批判する人がいたならば、私は「自分の信念で突き進むリーダーに、本当について行きたいか?」と問いかけてみたいと思っています。
このコラムの執筆専門家

- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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