- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:労働問題・仕事の法律
5.継続雇用先の範囲の拡大
・継続雇用先の範囲をグループ会社にまで拡大する特例において、グループ会社とされる特殊関係事業主とは、
[1]元の事業主の子法人等
[2]元の事業主の親法人等
[3]元の事業主の親法人等の子法人等
[4]元の事業主の関連法人等
[5]元の事業主の親法人等の関連法人等
のグループ会社である。
他社を自己の子法人等とする要件は、当該他社の意思決定機関を支配していえることである。具体的には、親子法人等関係の支配力基準を満たすことである。
また、他社を自己の関連法人等とする要件は、当該他社の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができることである。具体的には、関連法人等関係の影響力基準を満たすことである。
・継続雇用先の範囲をグループ会社にまで拡大する特例を利用するためには、元の事業主と特殊関係事業主との間で「継続雇用制度の対象となる高年齢者を定年後に特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約」を締結することが要件とされており、特殊関係事業主は、この事業主間の契約に基づき、元の事業主の定年退職者を継続雇用することとなった。
事業主間の契約を締結する方式は自由である。しかし、紛争防止の観点から、書面によるものとすることが望ましいと考えられる。書面による場合、例えば、以下のような契約書が考えられる。
(参考)
継続雇用制度の特例措置に関する契約書(例)
○○○○株式会社(以下「甲」という。)、○○○○株式会社(以下「乙1」という。)及び○○○○株式会社(以下「乙2」といい、乙1及び乙2を総称して「乙」という。)は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号。以下「高齢者雇用安定法」という。)第9条第2項に規定する契約として、次のとおり契約を締結する(以下「本契約」という。)。
第1条 乙は、甲が高齢者雇用安定法第9条第1項第2号に基づきその雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するための措置として導入する継続雇用制度を実施するため、甲の継続雇用制度の対象となる労働者であってその定年後も雇用されることを希望する者(次条において「継続雇用希望者」という。)を、その定年後に乙が引き続いて雇用する制度を導入する。
第2条 乙は、甲が乙に継続雇用させることとした継続雇用希望者に対し、乙が継続雇用する主体となることが決定した後、当該者の定年後の雇用に係る労働契約の申込みを遅滞なく行うものとする。
第3条 第1条の規定に基づき乙1又は乙2が雇用する労働者の労働条件は、乙1又は乙2が就業規則等により定める労働条件による。
以上、本契約の成立の証として本書3通を作成し、甲、乙1、乙2各自1通を保有する。
平成 年 月 日
(甲)東京都○○○
株式会社○○○○
代表取締役○○ ○○ (印)
(乙1)東京都○○○
株式会社○○○○
代表取締役○○ ○○ (印)
(乙2)東京都○○○
株式会社○○○○
代表取締役○○ ○○ (印)
・特殊関係事業主の要件は、
1、契約の相手方たる要件である以上、まず契約を締結する時点で、その要件を満たす必要があり、
2、加えて、法律上、契約の内容として「特殊関係事業主が引き続いて雇用すること」が求められていることから、労働者が特殊関係事業主において雇用され始める時点でも特殊関係事業主たる要件を満たす必要がある。
・継続雇用先の範囲をグループ会社にまで拡大する特例を利用するためには、元の事業主とグループ会社(特殊関係事業主)との間で「継続雇用制度の対象となる高年齢者を定年後に特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約」を締結することが要件とされており、特殊関係事業主は、この事業主間の契約に基づき、元の事業主の定年退職者を継続雇用することとなった。
この場合において、特殊関係事業主が継続雇用する場合に提示する労働条件についても、高年齢者雇用安定法の趣旨に反するものであってはならないが、労働者の希望に合致した労働条件の提示までを求めているわけではない。
このため、労働基準法や最低賃金などの雇用に関すルールの範囲内で、フルタイム、パートタイムなどの労働時間、賃金、待遇などに関して、特殊関係事業主と労働者との間で継続雇用後の労働条件を決めることができると考えられる。
なお、特殊関係事業主が合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と特殊関係事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、特殊関係事業主はもとより、元の事業主が高年齢者雇用安定法違反となるものではない。
・継続雇用先の範囲をグループ会社にまで拡大する特例の利用によりグループ会社として他の事業主の定年退職者を雇用することとされている場合には、自社の継続雇用制度により雇用する自社の定年退職者よりも優遇して取り扱わなければならないわけではない。
なぜなら、継続雇用先の範囲を特殊関係事業主にまで拡大する特例の利用により特殊関係事業主として他の事業主の定年退職者を継続雇用することとされている場合にも、個別の合意により締結される労働契約に基づいて具体的な労働条件が定まるのであり、これは、自社の定年退職者を継続雇用する場合と同様である。
したがって、どちらか一方を他方よりも優遇して取り扱わなければならないことはない。
・継続雇用先の範囲を拡大する特例を利用する場合に、継続雇用制度の対象者を自社で雇用するか他社で雇用させるかについては、継続雇用制度を運用する中で事業主が判断することができる。この場合、継続雇用制度の対象者を自社で雇用するか他社で雇用させるかを判断するための基準を事業主は就業規則や労使協定等で設けることもできる。
今回の高年齢者雇用安定法の改正で継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止されたことに伴い、継続雇用制度は希望者全員を対象とするものとしなければならないが、継続雇用制度の対象者を自社で雇用するか他社で雇用させるかを判断するための基準を設けた場合でも、こうした基準は、継続雇用制度の対象者を限定する基準ではなく、継続雇用制度の対象者がどこに雇用されるかを決めるグループ内の人員配置基準であるので、高年齢者雇用確保措置の義務違反とはならない。
・継続雇用先をグループ会社にする場合、グループ会社の範囲であれば、例えば海外子会社など、遠隔地にある会社であっても、差し支えない。グループ会社(特殊関係事業主)は、それがたとえ遠隔地にある会社であったとしても、そのことだけで高年齢者雇用確保措置義務違反になることはない。
グループ会社も含めた継続雇用制度で継続雇用する場合に、事業主が提示する継続雇用先(勤務場所)については、自社で継続雇用する場合の労働条件と同様に、労働者の希望に合致した労働条件までは求められていないが、法の趣旨を踏まえた合理的な裁量の範囲内のものであることが必要と考えられる。
・継続雇用先をグループ会社にすることを考えているが、元の事業主の定める就業規則とグループ会社の定める就業規則とでは解雇事由に差異があり、グループ会社の定める解雇事由の方がより解雇事由が広いものとなっている。この場合、元の事業主の定年到達者をグループ会社において継続雇用するかどうかの判断に、グループ会社の解雇事由を用いてもよいか。それとも、元の事業主で継続雇用するのと同様に、元の事業主の解雇事由を用いる必要があるのか。
上記設例について、継続雇用制度は、「現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度」であり、この定義は平成24年の法改正の前後で変更はない。
また、継続雇用するかどうかを判断する主体は、従来と同様、当該高年齢者を定年まで雇用していた元の事業主である。
したがって、高年齢者を継続雇用するか否かは、継続雇用する主体にかかわらず、まず元の事業主が自社の就業規則に定める解雇事由・退職事由に基づいて判断し、継続雇用することにした場合に、雇用先としてグループ会社を利用するということになる。
・元の事業主では、経過措置により継続雇用制度の対象者に係る基準を定めているとともに、継続雇用先をグループ会社にまで広げている。定年到達者をグループ会社で継続雇用することにした場合、この定年到達者が経過措置で基準の利用が認められている年齢に達したときに、このグループ会社は、元の事業主の基準を用いなければならないわけではない。
この場合、元の事業主との間の契約内容に、経過措置による継続雇用制度の対象者に係る元の事業主の基準を用いる旨が盛り込まれていれば、グループ会社は、グループ会社自身の基準の有無にかかわらず、その契約内容に基づいて元の事業主の基準を用いることになると考えられる。
なお、グループ会社による継続雇用が一年ごとに労働契約を更新する形態で行われる場合、グループ会社は、有期労働契約のルールに則って、更新基準を設けることができる。ただし、年齢のみを理由として65歳前に雇用を終了させるような更新基準は、高年齢者雇用安定法の趣旨に違反する。
このコラムに類似したコラム
高年齢者雇用安定法の平成24年改正、その1 村田 英幸 - 弁護士(2013/08/30 12:45)
高年齢者雇用安定法の平成24年改正、その4 村田 英幸 - 弁護士(2013/08/30 12:52)
労働者に対する所持品検査 村田 英幸 - 弁護士(2013/08/09 04:19)
労働組合との団体交渉 村田 英幸 - 弁護士(2013/08/08 11:56)
労働組合の要件 村田 英幸 - 弁護士(2013/08/07 19:27)