高年齢者雇用安定法の平成24年改正、その1 - 労働問題・仕事の法律全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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高年齢者雇用安定法の平成24年改正、その1

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高年齢者雇用安定法の平成24年改正

 

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の平成24年改正(9条)によって、高年齢者雇用確保措置の一つである「継続雇用制度」については、希望者全員を対象とすることが必要となった。

以前は、継続雇用の対象者を限定する基準を労使協定で定める仕組みが認められていた。

 

高年齢者雇用安定法(高年齢者雇用確保措置関係)について、詳しい説明は、以下のとおりである。

 

1.継続雇用制度の導入と経過措置

改正高年齢者雇用安定法においては、事業主が高年齢者雇用確保措置として継続雇用制度を導入する場合には、希望者全員を対象とするものにしなければならないので、事業主が制度を運用する上で、原則として、労働者の意思を確認することになる。

 ただし、例外的に、改正高年齢者雇用安定法が施行されるまで(平成25年3月31日)に労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主についてのみ、経過措置として、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが認められている。

 なお、心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由・退職事由(年齢に係るものを除く。)に該当する場合には、継続雇用しないことができる。ただし、継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが必要である。

(参考)老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢

平成2541日から平成28331日まで 61

平成2841日から平成31331日まで 62

平成3141日から平成34331日まで 63

平成3441日から平成37331日まで 64

 

・高年齢者雇用安定法は、事業主に定年の引上げ、継続雇用制度の導入等の高年齢者雇用確保措置を講じることを義務付けているため、当分の間、60歳以上の労働者が生じない企業であっても、65歳までの定年の引上げ、継続雇用制度の導入等の措置を講じていなければならない。

 

・継続雇用制度を導入していなければ、60歳定年による退職は無効となるものではない。なぜなら、高年齢者雇用安定法は、事業主に定年の引上げ、継続雇用制度の導入等の高年齢者雇用確保措置を講じることを義務付けているものであり、個別の労働者の65歳までの雇用義務を課すものではない。

 したがって、継続雇用制度を導入していない60歳定年制の企業において、定年を理由として60歳で退職させたとしても、それが直ちに無効となるものではないと考えられるが、適切な継続雇用制度の導入等がなされていない事実を把握した場合には、高年齢者雇用安定法違反となったので、公共職業安定所を通じて実態を調査し、必要に応じて、助言、指導、勧告、企業名の公表を行うこととなった。

 

・継続雇用制度について、定年退職者を継続雇用するにあたり、いわゆる嘱託やパートなど、従来の労働条件を変更する形で雇用することは可能である。その場合、1年ごとに雇用契約を更新する形態でもよい。継続雇用後の労働条件については、高年齢者の安定した雇用を確保するという高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであれば、最低賃金などの雇用に関すルールの範囲内で、フルタイム、パートタイムなどの労働時間、賃金、待遇などに関して、事業主と労働者の間で決めることができる。

 1年ごとに雇用契約を更新する形態については、高年齢者雇用安定法の趣旨にかんがみれば、年齢のみを理由として65歳前に雇用を終了させるような制度は適当ではないと考えられる。

 したがって、この場合は、

[1]65歳を下回る上限年齢が設定されていないこと [2]65歳までは、原則として契約が更新されること(ただし、能力など年齢以外を理由として契約を更新しないことは認められる。) が必要であると考えられるが、個別の事例に応じて具体的に判断されることとなった。

 

・また、例えば60歳の時点で、

[1]従前と同等の労働条件で65歳定年で退職 [2]60歳以降の雇用形態を、65歳を上限とする1年更新の有期労働契約に変更し、60歳以降の労働条件を変更した上で、最大65歳まで働き続ける のいずれかを労働者本人の自由意思により選択するという制度を導入した場合、継続雇用制度を導入したということでよい。

 高年齢者が希望すれば、65歳まで安定した雇用が確保される仕組みであれば、継続雇用制度を導入していると解釈されるので差し支えない。

 なお、1年ごとに雇用契約を更新する形態については、高年齢者雇用安定法の趣旨にかんがみれば、65歳までは、高年齢者が希望すれば、原則として契約が更新されることが必要である。個々の事例において、高年齢者雇用安定法の趣旨に合致しているか否かは、更新条件がいかなる内容であるかなど個別の事例に応じて具体的に判断されることとなる。

 

・継続雇用制度として、再雇用する制度を導入する場合、実際に再雇用する日について、定年退職日から若干の空白日があっても許容される。なぜなら、継続雇用制度は、定年後も引き続き雇用する制度である。しかし、雇用管理の事務手続上等の必要性から、定年退職日の翌日から雇用する制度となっていないことをもって、直ちに法に違反するとまではいえないと考えられており、このような制度も「継続雇用制度」として取り扱うことは差し支えない。ただし、定年後相当期間をおいて再雇用する場合には、「継続雇用制度」といえない場合もある。

 

・高年齢者雇用確保措置が講じられていない企業については、企業名の公表などが行われる。改正高年齢者雇用安定法10条においては、高年齢者雇用確保措置が講じられていない企業が、高年齢者雇用確保措置の実施に関する勧告を受けたにもかかわらず、これに従わなかったときは、厚生労働大臣がその旨を公表できることとされているので、当該措置の未実施の状況などにかんがみ、必要に応じ企業名の公表を行い、各種法令等に基づき、ハローワークでの求人の不受理・紹介保留、助成金の不支給等の措置を講じることにしている。

 

・対象労働者と事業主の間で賃金と労働時間の条件が合意できず、継続雇用を拒否した場合も違反にならない。なぜなら、高年齢者雇用安定法が求めているのは、継続雇用制度の導入であって、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく、事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、高年齢者雇用安定法違反となるものではない。

 

・定年後の就労形態をいわゆるワークシェアリングとし、例えば、それぞれ週3日勤務で概ね2人で1人分の業務を担当する場合、このような継続雇用制度でも高年齢者雇用安定法の雇用確保措置として認められる。高年齢者の雇用の安定を確保するという高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえたものであり、事業主の合理的な裁量の範囲の条件であれば、定年後の就労形態をいわゆるワークシェアリングとし、勤務日数や勤務時間を弾力的に設定することは差し支えないと考えられる。

 

・有期契約労働者に関して、就業規則等に一定の年齢(60歳)に達した日以後は契約の更新をしない旨の定めをしている事業主は、有期契約労働者を対象とした継続雇用制度の導入等を行わなければ、高年齢者雇用安定法第9条違反となるとは限らない。

 高年齢者雇用安定法第9条は、主として期間の定めのない労働者に対する継続雇用制度の導入等を求めているため、有期労働契約のように、本来、年齢とは関係なく、一定の期間の経過により契約終了となるものは、別の問題であると考えられる。

 ただし、有期契約労働者に関して、就業規則等に一定の年齢に達した日以後は契約の更新をしない旨の定めをしている場合は、有期労働契約であっても反復継続して契約を更新することが前提となっていることが多いと考えられ、反復継続して契約の更新がなされているときには、期間の定めのない雇用とみなされることがある。これにより、定年の定めをしているものと解されることがあり、その場合には、65歳を下回る年齢に達した日以後は契約しない旨の定めは、高年齢者雇用安定法第9条違反であると解される。

 したがって、有期契約労働者に対する雇い止めの年齢についても、高年齢者雇用安定法第9条の趣旨を踏まえ、段階的に引き上げていくことなど、高年齢者雇用確保措置を講じていくことが望ましいと考えられる。

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