高年齢者雇用安定法の平成24年改正、その4 - 労働問題・仕事の法律全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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高年齢者雇用安定法の平成24年改正、その4

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4.経過措置により労使協定で定める基準の内容

・経過措置により労使協定で定める継続雇用制度の対象者を限定する基準とは

労使協定で定める基準の策定に当たっては、労働組合等と事業主との間で十分に協議の上、各企業の実情に応じて定められることを想定しており、その内容については、原則として労使に委ねられるものである。

 ただし、労使で十分に協議の上、定められたものであっても、事業主が恣意的に継続雇用を排除しようとするなど本改正の趣旨や、他の労働関連法規に反する又は公序良俗に反するものは認められない。

 【適切ではないと考えられる例】

 『会社が必要と認めた者に限る』(基準がないことと等しく、これのみでは本改正の趣旨に反するおそれがある)

 『上司の推薦がある者に限る』(基準がないことと等しく、これのみでは本改正の趣旨に反するおそれがある)

 『男性(女性)に限る』(男女差別に該当)

 『組合活動に従事していない者』(不当労働行為に該当)

 なお、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準については、以下の点に留意して策定されたものが望ましいと考えられる。

[1]意欲、能力等をできる限り具体的に測るものであること(具体性)

 労働者自ら基準に適合するか否かを一定程度予見することができ、到達していない労働者に対して能力開発等を促すことができるような具体性を有するものであること。

[2]必要とされる能力等が客観的に示されており、該当可能性を予見することができるものであること(客観性)、すなわち、企業や上司等の主観的な選択ではなく、基準に該当するか否かを労働者が客観的に予見可能で、該当の有無について紛争を招くことのないよう配慮されたものであること。

 

・経過措置による継続雇用制度の対象者に係る基準として、「会社が必要と認める者」や「上司の推薦がある者」を定めるというだけでは基準を定めていないことに等しく、高年齢者雇用安定法の趣旨を没却してしまうことになったので、より具体的なものにする必要がある。したがって、このような不適切な事例については、公共職業安定所において、必要な報告徴収が行われるとともに、個々の事例の実態に応じて、助言・指導、勧告、企業名の公表の対象となる(高年齢者雇用安定法10条)。

 

・また、経過措置による継続雇用制度の対象者に係る基準として、「過去○年間の人事考課が○以上である者であって、かつ、会社が必要と認める者」というように組み合わせの一つとして基準を含めることは違法である。継続雇用制度の対象者に係る基準の策定に当たっては、労使間で十分協議の上、各企業の実情に応じて定められることを想定しているが、労使で十分に協議の上、定められたものであっても、事業主が恣意的に継続雇用を排除しようとするなど、高年齢者雇用安定法の趣旨に反するものは認められない。

 上記の基準の組み合わせについて言えば、たとえ「過去○年間の人事考課が○以上である者」という要件を満たしていても、さらに「会社が必要と認める者」という要件も満たす必要があり、結果的に事業主が恣意的に継続雇用を排除することも可能となるため、このような基準の組み合わせは、高年齢者雇用安定法の趣旨にかんがみて、適当ではないと考えられる。

 

・なお、例えば、「過去○年間の人事考課が○以上である者、または、会社が必要と認める者」とした場合については、「過去○年間の人事考課が○以上である者」は対象となり、その他に「会社が必要と認める者」も対象となると考えられるため、高年齢者雇用安定法違反とまではいえない。

 

・経過措置による継続雇用制度の対象者に係る基準として、「協調性のある者」や「勤務態度が良好な者」という基準を設けることはできる。高年齢者雇用安定法の趣旨にかんがみれば、より具体的かつ客観的な基準が定められることが望ましいと考えられるが、労使間で十分協議の上定められたものであれば、高年齢者雇用安定法違反とまではいえない。

 

・経過措置による継続雇用制度の対象者に係る基準を定めるにあたり、労使協定で定めた場合、非組合員や管理職も含め、すべての労働者に適用されることとなった。

 

・労使協定では、通常、労働組合の対象者(組合員)のみを念頭に規定するので、労働組合法上の労働組合に加入できない管理職については労使協定で、『定年時に管理職であった労働者については、別途就業規則で定める』と定め、別途就業規則で、経過措置による継続雇用制度の対象者に係る基準を定めることは不可である。

なぜなら、過半数を代表する労働組合と労使協定を結ぶことを求めているのは、基準について労働者の過半数の団体意思を反映させるとともに、使用者による恣意的な対象者の限定を防ぐことにある。

 このため、定年時に管理職であった労働者についても基準を定める場合には、過半数を代表する労働組合等との労使協定の中で定める必要がある。

 なお、管理職を対象に含む基準が労使協定の中で定められていなければ、管理職については、高年齢者雇用安定法の要件を満たす基準が設定されていないので、希望者全員を継続雇用制度の対象としなければ、公共職業安定所において指導を行っていくこととなる。

 

・労使協定で、特定の職種についてのみ規定することとし、他の職種については労使協定で、『○○職であった労働者については、別途就業規則で定める』と定め、別途就業規則で、経過措置による継続雇用制度の対象者に係る基準を定めることは不可である。

 過半数を代表する労働組合と労使協定を結ぶことを求めているのは、基準について労働者の過半数の団体意思を反映させるとともに、使用者による恣意的な対象者の限定を防ぐことにある。

 このため、労使協定で対象とする特定の職種以外の他の職種であった労働者についても基準を定める場合には、過半数を代表する労働組合等との労使協定の中で定める必要がある。

 なお、当該他の職種を対象に含む基準が労使協定の中で定められていなければ、当該他の職種については、高年齢者雇用安定法の要件を満たす基準が設定されていないので、希望者全員を継続雇用制度の対象としなければ、公共職業安定所において指導を行っていくこととなる。

 

・職種別に異なる基準や管理職であるか否かによって異なる基準を定めることは可能である。

なぜなら、継続雇用制度の対象者に係る基準の策定に当たっては、労使間で十分協議の上、各企業の実情に応じて定められることを想定しておりますので、労使間で十分に話し合って、労使納得の上で労使協定により定めたものであり、基準の対象年齢が経過措置として認められている範囲のものであれば、高年齢者雇用安定法違反とはならない。

 

・経過措置による継続雇用制度の対象者に係る基準として、「○○職(特定の職種)の者」や「定年退職時に管理職以外の者」という基準を設け、特定の職種や管理職以外の者のみを継続雇用する制度は、高年齢者雇用安定法の規定からは可能である。しかし、高年齢者が年齢にかかわりなく働き続けることのできる環境を整備するという高年齢者雇用安定法の趣旨にかんがみれば、職種や管理職か否かによって選別するのではなく、意欲と能力のある限り継続雇用されることが可能であるような基準が定められることが望ましいと考えているので、各企業で基準を定める場合においても、高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえて、労使で十分話し合っていただき、できる限り多くの労働者が65歳まで働き続けることができるような.仕組みを設けることがベターである。

 

・ある事業主においては、男女労働者の間に事実上の格差が生じているため、経過措置による継続雇用制度の対象者に係る基準について、男女同じ基準を適用した場合、当該基準を満たす女性労働者はほとんどいなくなってしまう。このため、継続雇用される男女の比率が同程度となるよう、継続雇用制度の対象者に係る基準を男女別に策定したいと考えているが、問題はあるか。

上記について、男女労働者の間に事実上の格差が生じているなど、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情がある場合には、当該事情を改善することを目的として、男性労働者と比較して女性労働者を有利に取り扱う基準を定めることは、男女雇用機会均等法第9条の要請に合致していると考えられるため違法とはいえないと考えられる。

 ただし、当該事情の存否の判断については、女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない状況にあるなど、男女雇用機会均等法に基づき考慮すべき事項等があるので、男女雇用機会均等法の考え方については、お近くの雇用均等室までお問い合わせ下さい。

 

・ある事業主においては、継続雇用制度の導入に当たり、障害のある高齢者の継続雇用を積極的に進めたいと考えている。このため、経過措置による継続雇用制度の対象者に係る基準として、体力等に関する基準を定める際、障害者については当該基準を適用しなかったり、異なる基準を設けたりすることは可能である。

なぜなら、「障害者の雇用の促進等に関する法律」により、事業主は障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有し、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るように努めることとされていることから、継続雇用制度導入に際し、障害者を優先することは適切な対応であり、健常者についての体力等に関する基準を免除したり、緩和することは差し支えない。

 

・経過措置により継続雇用制度の対象者に係る具体性・客観性のある基準を定めても、その基準に該当する者全員の雇用を確保しなければ、高年齢者雇用安定法に定める高年齢者雇用確保措置を講じたものとは解釈されない。

なぜなら、継続雇用制度の対象者の基準に該当する者であるにもかかわらず継続雇用し得ない場合には、基準を定めたこと自体を無意味にし、実態的には企業が上司等の主観的選択によるなど基準以外の手段により選別することとなるため、高年齢者雇用安定法に定める高年齢者雇用確保措置を講じたものとは解釈されない。

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