このところ体罰に関する話がいろいろなところで取り上げられ、一種の社会問題化しています。この件については、私も人との接し方、指導の仕方、コミュニケーションの取り方といった切り口で、気づいたことがあればこれからも書いてみようと思っています。
先日、柔道全日本女子の監督が辞任することになってしまいましたが、この会見の際に「コミュニケーションは取れていると思っていたが、一方的な信頼関係だった」という主旨のことを話されていました。自分は「理解し合えている」と思っていたが、実際には一方的な思い込みだったという事です。
私が企業を見ている中でも、上司部下の関係や先輩後輩の関係において、これとまったく同じような事がよくあります。
・飲み会に誘うといつも喜んでついてきていると思っていた部下から、面談の席で「誘われるのが嫌でたまらない」と真顔で訴えられた。
・部下を軽く叱ったつもりが、本人はものすごく思い悩んで、うつ病を発症してしまった。
・もう何年も前の、ちょっとしたコミュニケーションの行き違いで、その場でとっくに解決したと思っていたことを、今になってまた再び持ち出された。
その他、セクハラ、パワハラなどに類することも、こんなお互いの認識違いがそもそもの発端であることがほとんどではないでしょうか。
このお互いの距離感の認識違いについて、私が見てきた中では、上司・先輩の方が部下や後輩よりも、相手との距離が近いと思い込んでいることが多いように思います。「上司、先輩、指導者は近しい関係と思っているが、部下、後輩、指導を受ける側はそう思っていない」ということです。
例えば世代が違う上司と部下の場合、上司は自分と10歳違い程度までは年齢の差を意識していますが、それ以上はみんな同じ感覚で思っていたりします。新卒の新入社員が入ってくるような会社であれば、ある時期から自分と新入社員との間の距離感があまり変わらなくなったりしていないでしょうか。
一方、部下の方は、上司のことをずっと年上の、遠い遠い雲の上の人と思っていたりします。最近の若者は年長者と接する機会が少なくなっているとも言われるので、なおさらそう感じているかもしれません。よく理解できないけれど、相手との衝突を避けるために、一生懸命相手に合わせようとしていたりします。
どちらかといえば権威や権力を持った上の立場の者の方が、自分に都合よく「近い関係」と思っているわけで、この状況を「それほど近い関係でない」と思っている下の立場の者から指摘することは、力関係から見てもかなり難しいことだと思います。もし話が出るとすれば、よほど関係がこじれてしまった上でのことでしょう。
こんな関係は、実は身近に沢山あることで、それが良くない作用を引き起こしていることも多いのではないでしょうか。
これを解決するには、特に上の立場の者から「相手(部下後輩)との距離感を把握する」ということを、継続して相手に働きかけていくしかありません。
自分の経験則や価値観だけにとらわれず、できれば客観的に、相手の態度や様子を見ながら、観察や雑談、オンの時もオフの時も含めた様々なコミュニケーションを、できるだけ頻繁に行っていくしかないと思います。(もちろん部下からも、上司と良い関係を作る努力はできるだけして頂きたいですが・・・)
上司からすれば、「実はよくわからない遠い人と部下から思われていた」なんてことは、とてもショックなことです。でもそれは、ある日突然事実を知ってしまうからショックなのです。
日頃から距離感をつかむ努力をしていれば、少なくともショックを受けるようなことは無くなるのではないかと思います。
お互いの関係を近づけることができれば、仕事の上でも組織運営の上でも、それに越したことはないはずです。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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