小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「市場価値」でなく、あえて「社内価値」に注目してみる
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「会社の看板」に頼らなくても、どこへ行っても仕事ができ、成果を出せる実力を身につけて、自分の「市場価値」を上げることが必要だと言われます。終身雇用や年功序列が崩れた昨今の状況では、さらに強調されているように思います。
実際に危機感を持ち、自分の将来を見つめて資格を取る、ビジネススクールに通う、副業を考えるなど、具体的な取り組みをする人も増えていると感じます。
私自身は独立事業者なので、基本的にはこの「市場価値」の中で生きています。自分の市場価値の有無が直接収益に関わってきますから、これを維持向上させることは、自分が仕事をしていく上での必須要件になります。
ただ、こうやって「市場価値」が強調される一方、実際にお客様の業務に関わる中では、「その会社の個別の事情に精通する」「一般的ではないがその会社にとって有益な情報を提供する」などといった「社内価値」が必要な場面はたくさんあります。確かにその会社でしか通用しませんが、実務上は必要であり、なおかつ重要なことです。
以前ある会社でうかがったことですが、社員500人ほどのその会社の総務部門に、社員カードに書かれるような情報をすべて暗記しているという社員がいたそうです。
名前や所属部署、役職などはもちろん、社員番号、入社年月日、出身学校、住所や本籍地の都道府県、社内の部署異動の履歴などといった付帯情報にあたるようなことまですべてです。他社では何の役にも立たない、究極の「社内価値」と言えるでしょう。
「そんな無駄なことを覚えていたってしょうがない」「パソコンで検索すればそれで済む」などという人もいるかもしれませんが、それは会社によって事情が違います。
この会社では、その方が効率が良い、便利、その情報が頻繁に必要など、何かしらの事情があって、その必要に迫られてのことであったはずです。無駄なことを個人の趣味で覚えたわけではないでしょう。しかもこれを記憶すること自体は、そう簡単なことではありません。
「社内価値」もここまで極めると、その人は会社にとって必要不可欠な人材になります。少なくとも会社が存続している限り、よほどの環境変化がない限りは「辞めてほしい」などとは言われないでしょうし、そこで評価されたことが、その後の「市場価値」につながることもあります。
どこにでも通じるような「市場価値」は大事ですが、本当の意味で身につけるには、それなりの経験や努力、さらに運も必要ですし、時間もかかると思います。また、勉強することは大事ですが、それが必ずしも実務と一致するとは限りません。
一方の「社内価値」は、当面の実務で必要なことがほとんどです。中途半端ではダメですが、社内で一目置かれるほどにきわめれば、それは立派な実力です。
危機感だけでむやみに「市場価値」を追いかけるより、目の前にあって身近なテーマでもある「社内価値」を高めようと考えた方が、結果的には自分の評価を高め、本当の意味での「市場価値」にもつながります。
まずは、身近で実際に起こっていることに注目してみることも、大切ではないでしょうか。
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