小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「あうんの呼吸」に頼るマネジメントの弊害
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あるウェブ記事に、『新人に「分かった?」と聞けば、「分かった」と答えるに決まっている』というものがありました。
教えたり指示したりした後、「分かった?」という言葉で簡単に終わらせず、理解度をきちんと確認することが大事で、その言い方も否定的、威圧的に受け取られないように工夫する必要があるという内容でした。
書かれていることはその通りで、実践していかなければならない内容ですが、私が現場でのマネジメントを見ている中では、実際にできていないことが多い部分です。
その理由はいろいろありますが、その一つとして思うのは、今まではそんなにいちいち理解度を確認しなくても、あまり問題がなかったのではないかということです。このことに限らず、特に日本人同士のコミュニケーションの場合、「あうんの呼吸」で済んでしまう場面が多かったのではないかと思います。
例えば、「あの件、うまく進めておいて」などという、およそ具体的なことを一つも言っていないような指示命令でも、お互いの共通認識があるおかげで何となく通じていたりします。上司の立場からすれば、あまり細かいことを指示したり確認したりしなくても、部下たちが「あうんの呼吸」で良きに計らってうまく仕事を進めてくれるので、これほど楽なことはありません。
ただ最近言われるのは、様々な価値観を持ったグローバル人材と一緒に仕事をする機会が増え、同じ日本人同士でも価値観が多様化している中では、この「あうんの呼吸」では通じないことが大幅に増えているということです。
「普通は通じるだろう」というような、思い込みに基づくアバウトなコミュニケーションでは、誤解や勘違い、間違いが起こりやすくなっているので、きちんと伝わっているかどうかをその都度確認することが、今まで以上に必要になってきているということです。
ただ、管理職クラスの方々からは、「最近の若手社員はいちいち指示しないと動かない」「自分たちとは常識が違う」といった、部下に対する批判的な話を聞きます。
確かにそういう面があるとは思うものの、上司の役割は、その時の状況を的確に判断して、部下に指示命令を出して動かすことですから、指示をしなければ動かないのは当たり前です。逆に指示もしないのに動かれたら困るはずですし、常識うんぬんを理由に、それをせずに済まそうというのは、本来ちょっとおかしな話です。
これこそ、今まで「あうんの呼吸」に頼ってきていて、それでどうにかなっていたという弊害のように感じます。「あうんの呼吸」で通じるのは、共通認識で話せる同僚や部下にたまたま恵まれていたということで、それは偶然で幸運だったということです。
「いちいち言わなければ通じなくなった」のではなく、「きちんと言わなければ伝わらない」という、ごく普通の形に戻ってきただけなのではないかと思います。
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