(続き)・・顧客や取引先に出向く時、あるいは来客があった時に、上司が自分の部下を対外的に紹介する機会はどの企業でも多いものです。特に新入社員や中途で入社した社員を紹介する際には、その紹介の仕方が相手に与える印象や、部下自身にもたらす心理的影響は無視できません。日本の企業に昔からよくありがちなのが、「こいつはまだ何も出来ませんから・・」とか「我が社のひよっ子ですから・・」といった類の言い方ですが、これは適切な紹介方法といえるでしょうか。
このような上司による部下の紹介方法は、一見して日本的な謙遜の美意識と捉えるフシもありますが、「何も出来ませんから・・」などと紹介された相手や部下本人は、一体どのように感じるでしょうか。紹介された相手はひょっとしたら心の中で、「何だ、何も出来ない青二才を連れてきたのか。我々も見くびられたものだ・・」などと感じ、この会社とは取引したくない、と考えてしまうかも知れません。今の時代、過度の謙遜はかえって相手を不安にさせてしまうものです。
部下本人に与える心理的な悪影響は、意外と深刻です。ちょうど両親が自分の子供を「こいつは出来の悪い息子(娘)ですから・・」と周囲に言いふらしているようなものです。そのように言われ続けた子供は抜き難い劣等感をもち、成績が伸びないばかりか、不良に育ってしまうかも知れません。職場に於いても上司から「出来が悪い」と言われ続けると、「自分は出来の悪い社員だ」という潜在意識が部下の心に刷り込まれ、伸びるべき能力も伸ばせない、お荷物社員が育ってしまいます。
もし職場全体で、上司が社員を対外的に「出来ない社員ですから・・」といった紹介の仕方をする風潮があると、外部の人間は「あの会社は人材を大事にしない会社だ」とか、「自分の子供はあの会社に入れたくない」などと、ネガティブな印象を持ってしまいます。また社員自身も自尊心を傷つけられ、能力を充分に発揮できないばかりか、著しい場合にはメンタル不調を招いてしまいます。そして会社のために全力を尽くす、というモチベーションを持つことができません。
対外的な自社の印象を良くし、社員に自信をもって仕事に励んでもらうためには、自慢話にならない範囲内で、部下自身のプライドを満たすような紹介方法が望まれます。例えば、部下の長所や持ち味、特技などを話題にしながら相手に紹介することがお勧めです。「彼はコンピューターが得意で、私もよく教えられているんですよ」とか、「たいへんな親思いで、お客さんにも優しいんですよ」などと具体例を挙げながら、この部下は信頼できる、将来性があることをアピールするのです。
このように紹介された部下は自尊心をくすぐられ、上司に少なからず好意をもつだけでなく、「仕事をもっと頑張ろう」とか「上司や職場にもっと貢献しよう」と感じるものです。また紹介された相手も「この会社は若手に恵まれているな」とか「社員を大切にしている会社だな」と感じ、この会社と関係をもつことに安心感を覚えます。このような会社に勤める社員は、会社に所属すること自体に誇りをもち、「自分は大切にされている」と確信することができるのです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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