少し前になりますが、その当時ファッション通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」の社長だった前沢友作氏が、仕事に対する考え方を語ったインタビュー記事がありました。
「嫌なことをするために会社に行く必要はない。みんなが好きなことをやってうまくいく会社が僕の理想」と言っていて、他にも
「“売り上げを伸ばそう”とか“利益をあげよう”とか、思ったことはなく、それより楽しみながら働ける会社をつくりたい」
「人生を楽しむため、好きなことをするために会社に入るのが本来のあり方。極端なことを言えば、嫌いなことは、一切やらなくてもいいとさえ思う」
「働くなんて、一種の“余暇活動”でいい」
「基本給とボーナスは全社員一律。好きなことをやるために一つ屋根の下に集まっているのだから、社内で無駄な競争などしない。いい時はみんなで分け合い、悪い時は共同責任という考え方」
といった話がされていました。
職業観は人それぞれいろいろですが、「仕事で上を目指すのは当然」「競争はあって当たり前」「好きなことばかりが仕事ではない」と考えている人にとっては、この話はちょっと受け入れづらいものでしょう。
しかし、あえて競争は捨て、みんなが好きなことややりたいこと、得意なことに取り組んで、それで会社が回っていくのだとすれば、それは一つの理想ではあります。私自身も「売上至上主義」「競争至上主義」はあまり肌に合わないところがあり、このような考え方には一部共感するところがあります。
この中で私が気になったのは、「余暇」という言葉です。
“余暇”の意味を調べてみると、「仕事の合間のひま。仕事から解放されて自由に使える時間」とあります。ここから見えるのは、「仕事」に対して「余暇」が存在するということであり、見方を変えると「仕事」がなくなれば「余暇」もなくなってしまうことになります。
例えば、定年などで引退して「仕事」がなくなってしまうと、何をしてよいのかがわからなくなるという人たちの話を聞きます。もし少しでも「仕事」の部分があれば、それ以外の時間が「余暇」になりますが、「仕事」が一切なくなると、それ以外の時間は「余暇」とはいえません。人生の大半を「仕事」と「余暇」の間を行ったり来たりして過ごしてきた人は、どうやって時間を使えばよいのかがわからなくなってしまうのでしょう。
ここでいう「仕事」とは、たぶん少し広い意味で“価値を生み出すこと”を指しているように思います。例えば専業主婦の家事であっても、何か趣味的な活動であっても、価値を生み出しているという点では「仕事」に近いものといえるでしょう。そういうものがあってこその「余暇」なのです。
もう一つ、この「余暇」という言葉の定義からすると、前提は「仕事」が拘束で「余暇」が自由にあたります。
「仕事」のやりがいの中には、「いかにして制約条件を乗り越えるか」「決められた枠の中におさめる工夫」といったものがありますが、もしも「仕事」で拘束がなく、すべてが自由に振舞えるとしたら、そのようなやりがいを感じることはなくなります。
「つらい」「不自由」「制約」「拘束」などがすべてなくなってしまうと、実は人間は人生を楽しめなくなってしまうのかもしれません。
このあたりは、「ワーク・ライフ・バランス」にも通じる話ですが、程よいバランスがどこかというのは、なかなか決めづらい気がします。結局それは本人の心の中にしかなく、他人がそれを理解するのは難しいのかもしれません。
いずれにしても、「仕事」があってこその「余暇」ということのようです。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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