少し前ですが、資生堂が歌舞伎俳優などの使う伝統的な舞台用化粧品を、「売上が限られている」との理由で生産終了の発表をしたところ、多くの著名な役者たちから「品質の良さ」や「代用品がない」などと撤回を求める多くの声が挙がりました。その結果、資生堂は「伝統文化をしっかり支援する」との言葉とともに早々に生産終了の撤回を発表したという話題がありました。多くの舞台関係者が胸をなでおろし、資生堂の決断に感謝の言葉を述べていました。
商品の売上はたぶん微々たるものだったと思われ、そんな状況からは「もう生産を止めても影響はない」と判断したのだと思いますが、思った以上の反響と、商品が無くなることの影響の大きさに気づき、すぐに撤回したのでしょう。
会社の判断は素晴らしいと思いますし、売上だけではわからない商品価値の大きさを、あらためて理解したのだと思います。
また、こちらも少し前のことですが、ポケベルのサービスが終了されるという話題がありました。
その当時でも「まだあったのか」という感じでしたが、その時点で新規受付はすでに5年前から中止されていて、1500人を割っていた契約者のほとんどが医療関係者とのことでした。
こちらは同じ電波を利用した防災無線や防災ラジオに事業をシフトしているそうで、ポケベルから携帯電話に変わって、文字通信はあっという間に音声に取って代わられてしまいましたが、防災となると文字通信の優位性があるそうです。
サービスは終了しても、今までのノウハウが活かせるということで、古いサービスや技術にも、しっかり価値を見出していたようです。
最近通りがかった浅草の道路沿いで、お祭りのおみこしの製造販売をしているお店がありました。たぶん限られた一部の人しか利用しないでしょう。
しかし、同業者は日本全国を見渡しても少ないでしょうし、必要とする人は必ずいるはずで、そのニーズがまったくなくなることはありません。ある時期は淘汰されて同業者が減っていったのでしょうが、それを乗り越えて生き残ると、今度は絶対に欠かせない存在になります。
あるIT会社で聞いたのは、旧来の技術で作られたレガシーなシステムが今でも利用されており、一方それに対応できる技術者はどんどん減っており、いずれなくなると考えれば若手に技術習得させるものでもなく、定年を過ぎた高年齢の技術者に対応してもらっているそうです。
ITのように進歩が速い世界でも、やはり古い物がどこかに残っていて、その対応が必要になっています。利用者も単に予算などの問題だけでなく、使い勝手が良いなどと評価して、あえて古いシステムを好んで使っていることがあります。
最近のカフェやファミレスは、セルフサービスのところが多いですが、かつてどんどん減っていた昔ながらのフルサービスの喫茶店は、座席がゆったりしていて落ち着けるなどと言われて、あらためて注目されているそうです。年齢の高い人が昔のスタイルを好むことや、若い人でも用途に応じて使い分けるので、古いと言われたスタイルがまた受け入れられているようです。
昔を知る人にとっては原点回帰だった古い物が、それを知らない世代には新しいものや新しい取り組みと見られて、あらためて受け入れられることがあります。
このように、古いと言われて淘汰されていったものでも、残っていればその価値を失われないばかりか、逆に輝きを増すことが数多くあります。古い物と新しい物の融合で、それまでとは違う新しい価値を生むこともあります。
古くても残った物が、また新しい価値を生むことがあります。新しい物へ目を向けるのと同じように、古い物にも目を向けていくと、同じように新しい物が見えてくるかもしれません。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
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