「働かないアリ」は組織存続に必要という話から
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ご存じの人も多いかもしれませんが、働きアリに関する研究で、グループの中には必ず働かないアリが一定割合で存在していて、それらを排除しておグループを作っても、同じように一定割合の働かないアリが出現するという話があります。
この理由は長く解明されていなかったそうですが、最近の研究結果によれば、アリの1匹ずつを個体識別した上で、1カ月以上に渡って8つのコロニーの行動を観察した結果、最初よく働いていたアリが休むようになると、それまで働かなかったアリが動き始めることを確認したとのことです。
勤勉なアリだけのコロニーでは、アリが一斉に疲労で動けなくなるので、コロニーが滅びるのが早く、働かないアリがいる方がコロニーが長続きする傾向があったそうです。
コロニーの中に必ず2~3割いる働かないアリは、他のアリが疲れて動けなくなったときに代わりに仕事をして、集団の長期存続に不可欠なことがわかったそうです。
この研究を主導した教授は、「人間の組織でも、短期的な効率や成果ばかりを求めると悪影響が出ることがあり、組織を長期的な視点で運営することの重要性を示唆する結果ではないか」と語っていました。
少し前のことですが、これとまったく同じ話をしていた知り合いの社長がいます。
どう見ても暇そうな社員が何人かいたので、その社長に「そういう人を組織内に放置すると、他のメンバーがやる気を失う恐れがあるから、もう少しきちんと仕事を与えて働かせた方が良い」という話をしました。
その時に言われたのが、「もしも何か急に対処が必要なことが起こったとき、多少の余力がなければそれに対応できなくなるので、多少はそういう人員を抱えておくことも必要だ」ということでした。
その当時は、今一つ納得できない言葉でしたが、その後私もいろいろな会社とかかわってきた今は、一定の余力が必要ということに当てはまるケースは意外と多く、当時の話が理解できるようになりました。
実際に余力を持てる会社というのはそれほど多い訳でなく、多くの場合はギリギリの人数と限られた設備や時間の中で仕事をしています。目の前の収益を上げるためには、仕方がない部分でしょう。
ただ、そんな中で、誰か一人が欠けたり、機械やその他設備が壊れたり、急な納期短縮というような事態が起こったりすると、今いる人だけで、力技の人海戦術に頼るしかなくなってしまいます。
そういう状況での仕事は、どうしても雑になり、品質低下による手戻りが増えたり、さらに誰かが体調を崩したり、どんどん悪循環に陥って本当に会社存続の危機となったりします。
しかし、偶然も含めてそれなりの余力が会社にあった場合、ここまでひどい状況に至ることはありません。
ある会社であったことで、社内的に大きなプロジェクトの一つが炎上し、かなりピンチと思われる状況でしたが、たまたまそのタイミングで、会社の海外留学に参加していた社員が復職してきたため、プロジェクトはどうにか持ち直したということがありました。
さらに、復職してきた社員はしばらく仕事をしていなかったため、心と体のリフレッシュが万全だったせいか、結構な無理をサラッとこなしたらしく、この人が個人的に持っていた余力も、良い方向に作用したようでした。
「組織の存続のためには、多少の非効率も必要である」ということは、頭ではわかっていても実行するのはなかなか難しいことです。そもそもどの程度の余力が適切かがわかりづらいですし、やっぱり暇な誰かが周りにいるのは心情的に許せません。
それでも、「みんなが勤勉では、一斉に疲れて動けなくなってしまう」とか、「働いていた者が休み始めると、働かなかった者が動き始める」というのは、私の経験上でも感じることで、組織の存続のためには考慮しておくべきことです。
アリにできることなら、人間にもできると思ってしまいますが、そうはいかないものなのでしょうか。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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